Have to say ...


突然、自分の左側に人の気配を感じた。もしかして邪魔になっているかも…と思い少しだけ右にズレてみる。すると今度は視線を感じ、チラリと見ると若い男の人がいた。イマドキの大学生、といった風貌で、猫のようなつり目をしていた。その可愛らしい目が私の手元を見たことに気付く。


『あの…この本探してました…?私見てただけなんで、良かったらどうぞ』


そう言って持っていた本を差し出すと、彼の表情がパァーッと明るくなった。え、何よ…可愛いじゃん…。


「ええんですか?!」


声のトーンからも喜びが伝わってくる。そんなに嬉しいのかな…。


『はい。見てただけなので』


一応、営業スマイルで対応してみる。しかし彼の視線は本に向けられていた。そして「ありがとうございます!ホンマに!」と何度かお辞儀をして、レジに向かって行った。本当に嬉しそうだった所を見ると、よっぽどあの本が欲しかったのだろう。その無邪気さに何だか元気を貰えた気がした。

そうしている内に美容院の時間が迫っていて、私は特に何も買わず美容院に向かうことにした。その足取りはさっきよりもっと軽くなっていた。





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