空に君を想う



『お疲れ様です』


本社に到着し、一言挨拶しようと顔を出す。というのは口実で、私の視線は木暮さんの席一直線だ。しかし、木暮さんの姿は無かった。

残念な気持ちを周りに悟られ無いようにテキトーに会釈し、会議室に向かおうとした時、木暮さんがデスクに戻ってきた。顔を見たのは一週間ぶりくらいなのに、嬉しくてニヤけそうになる。木暮さんはすぐに私に気付き、こちらに来ようとした。しかしそれは「木暮さん、お電話です」という呪文のような言葉によって、いとも簡単に遮られてしまった。木暮さんは電話対応しつつ、こちらにヒラヒラと手を振ってくれた。その仕草に胸がキュンと締め付けられる。


ダメダメ…今は仕事中…!


そう自分に言い聞かせ、バレないように小さく手を振り返し、私は会議室へ向かった。


予定通り、会議は一時間くらいで終わった。これから店舗に帰ってまた仕事をしなければならない。今日は残業してでもやらなければならない事がある為、木暮さんと会う約束はしていない。だからせめて一目見て帰ろうと再びオフィスに顔を出したが、木暮さんの姿は無かった。どうやら会議中らしい。

忙しいのはありがたい事だし、それに週末にまた会えるし…と密かに自分を励ましながら、私は本社を後にした。


ビルの隙間から見える空は、雲が少しずつ切れていき、ほんの少しだけ見える青色が綺麗だった。




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