看板娘と、自転車の彼と、五月の太陽
次の日
今日も私は店の前を掃除している。
もしまたあの人が来たら、一言言ってやるんだ…!そしてうちで油を刺して貰えば一石二鳥になる。私ってば商売上手かも…!
昨日とは違い、早くあの鈍い音が聞きたくて今か今かと待っていた。すると、遠くから自転車に乗った人がやって来るのが見えた。昨日の人だ…!どんどん近付いてくるが、一向にあの音は聞こえない。
あれ…?
そして、その人はそのまま私の横を素通りして行きそうになった。
『えっ…ちょ…待って下さいっ…!』
思わず声を掛けてしまった。向こうも気が付いたのか、自転車を漕ぐのを止めた。
「ぬ…?何…?」
目線だけこちらに向けたその人は、切長の綺麗な目をしていて、黒い髪が肌の白さを引き立たせて見せた。こんな綺麗な顔をした人を初めて間近で見た私は、思わず固まってしまう。
『えっと……昨日、自転車がすっごい音してたんで…良かったらうちで見ようかなぁって思ってたんですけど…』
「…あぁ。それなら昨日の帰り、この店で直して貰ったけど…」
『えっ?!』
どうやら私が店にいない間に来て、父に直して貰ったようだった。は、恥ずかしいっ…!
『す、すみませんっ…!それなら良いんですっ…!』
思わず頭を下げると、その人はプッと吹き出した。恐る恐る顔を上げると、クスクスと笑っている。
「何で謝んの?むしろこっちがお礼言いたいくらいなのに」
『あっ…は、はい……』
「自転車、すげー乗りやすくなった。アンタの父さん、すげぇな」
『ま、また何かあればいつでも寄って下さいね…』
「…商売上手」
爽やかな風が吹き抜けた。
彼の前髪が揺れる。
少しだけ見える額が胸を騒がせた。
「それじゃ、また」
彼は再び自転車を漕いで、行ってしまった。そして、昨日のような鈍い音がまた聞こえた気がした。
それが私の胸の音だという事に気付くまで、そう時間は掛からなかった。
五月の太陽より、私の目に映る彼の背中の方が眩しくて仕方ない。
これが恋ってやつなの…かな。
彼が自転車を漕いで進んだ道は、キラキラ輝いて見えた。
これからは、ゴールデンウィーク以外でも店番をする時間が増えそうだ。
おわり
あとがき→
