看板娘と、自転車の彼と、五月の太陽
私の家は自転車屋をやっている。
ゴールデンウィークは掻き入れ時だからと父は張り切っていて、店の装飾やらポップ作成やらを手伝わされた。しかも開店時間もいつもより少し早くするとか訳の分からない事を言い出し、挙げ句の果てに店番&店の前の道を掃除するよう言いつけられた。もちろん多少お小遣いを弾むと言われたからしているまでだが…。
まだ太陽が顔を出したばかりで、誰も歩いていない道に箒をかける。少し冷んやりした空気の中で浴びる目覚めたばかりの太陽の光が、こんなにも気持ちの良いものだとは知らなかった。
誰も見ていないだろうから、思いっきり背伸びしてやる。そう思い、グーッと腕をのばした時だった。
ギッ…キギッ……。
え、嘘でしょ…?素敵で爽やかな朝からこんな音…。
私はそれがベッドが軋む音だと思った。隣りのアパートに引っ越してきたカップルがお盛んなのは周知の事実だったから。
その音はどんどん大きくなっていく。誰も外にいないと思っているのだろうか。しかしアパートの窓の方を振り向く勇気なんて無く、箒を強く振って聞こえないようにした。
すると、私の横を自転車に乗った人が通り過ぎて行った。ギッ…ギッ…と音を立てながら。それを知って、勘違いをしていた自分が急に恥ずかしくなる。
『油刺しなさいよ、紛らわしいっ!』
思わず大声を出してしまったが、気付いていないのかその人はフラフラと自転車を漕いで行ってしまった。
あんなに音を鳴らして気にならないなんて、相当変わり者に違いない。そう思いながら、私はさっきよりもさらに強く箒をかけた。
.
1/3ページ
