02:Préface
NAME CHANGE
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その後、どうやって家に帰ったかもよく覚えていないが気付けば店の外に立っていた。中では母ちゃんが馴染みの客と笑いながら話したり、父ちゃんが耳が遠い婆ちゃんにゆっくりデカい声で薬の説明をしていた。毎日見る当たり前の光景が、俺をここまで育ててくれたこの光景が、俺の選択で壊されてしまうのは耐えられない。
自室に篭り、一晩中考え、悩み、俺は一つの結論に辿り着いた。
俺が名前を幸せに出来る男になれば良い、と。
窓の外はまだ日の出前で、遠くの空が薄らと明るくなっていた。うちの薬局で売っている薄荷飴みたいな色だったのをよく覚えている。
それから俺は必死に勉強した。
勉強して、良い企業に入って、父ちゃんと母ちゃんが守ってきた店を俺も守る。
ちゃんと迎えに行けるようになるまで、名前とは会わない。だから向こうから花火大会に行こうと連絡が来た時は、心が揺らぎそうになった。
毎年一緒に行っていた花火大会。
『綺麗やね』と微笑む名前が好きだった。
想いを口にした事は無いけれど、お互い好き同士だと分かっていた。いつかは伝えなければと思う矢先のこの事態だったが、時間を掛けてでも取り戻してみせる。
もう、迷いは無い。
それからあっという間に時は流れ、俺は大手製薬会社に就職が決まり、会社員として働き始めた。
仕事にも慣れてきた頃、名前が結婚したと人伝いに聞いた。しかしそれも想定の範囲内だった為、特に気に留める事は無かった。
そして先月、ついに俺は会社で昇級し、役付になる事が決まった。
これで名前を迎えに行ける。そう思っていた時、たまたま実家の近所で名前のお母さんが、明後日名前が久しぶりに帰って来ると嬉しそうに立ち話しているのを聞いた。
そう言う訳で、俺は朝からずっと駅の改札口に立っていたのだ。
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