3月21日



『なんか、三井先輩みたい…』

「は?何だよ、それ」

『完璧じゃないけど、そこに良さがあるっていうか……先輩が気を抜いた瞬間の表情とか、私好きですよ。人間くさくて』


あー、もう何言ってるんだろう…。いいや。もうお酒のせいちしちゃえ。

と決めたものの、先輩が何もリアクションしてくれなくて横を向けず、ただチビチビと缶ビールを飲む事しか出来なかった。



「まぁ、そうかもな。俺は完璧にはなれねぇ。昔からそうだったしな」


何かを懐かしむように先輩は桜の方を見ていた。先輩にも色々あるんだなぁなんてまたその綺麗な横顔を見ながら思う。


「少し冷えてきたな。今何時だ?」

『あ…えっと…ちょうど0時くらいです。日付変わっちゃいましたねぇ。忘れもしない納期の3月21日ですよ』

「うげ…その話もう止めろよな。せっかく終わったのによー」

『3、2、1……ミ、ツ、イ……ですよね?実はずっと思ってたんですけど、怒るかなって思って黙ってました』

「まぁ、仕事中だったらブチ切れてたかもな。でも今は終わって気分が良いから良いぜ、別に。むしろザマーミロってんだ」


ニヒヒと歯を見せるその笑顔に、私の胸の鼓動はどんどん速さを増していく。


『…今日が納期で良かったです』

「はぁ?お前、訳分かんねーな。酔ってんのか?」

『先輩、桜が満開になったらまたここに来ませんか…?』

「ん?あぁ、そうだな。良いぜ」


先輩のかっこいい顔を満開の桜の下で見てみたい。でもきっと、今日の先輩が一番かっこいいんだろうな…。


『私、完璧じゃない先輩が好きだなぁ…』

「あ?何つった?」

『も〜…そういうトコですよ…』



どうやら私は三井先輩の事が好きだと気付いてしまったようだ。


来年もまた隣りに座って缶ビールを飲んでいたいな。



3月21日、私の恋が動き出した。



おわり


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