凍える身体を温めて
凍える身体を温めて(越野ver.)
『いらっしゃいま……なんだ、宏明か』
「なんだって何だよ。客に向かって失礼な」
『ハァ…なんかさー、その台詞もベタだよね。少女漫画かっ』
私の家は所謂、商店街のお肉屋さんで、唐揚げやコロッケなんかも売っている。
幼なじみの宏明はいつも部活で帰りが遅くて、あと5分も掛からずに自分の家に着くというのに、ほぼ毎日うちの店に寄って行く。
外が寒く手が冷たいのか、宏明は熱そうに袋を持ってハフハフとメンチカツを食べている。
本当は顔が見られて嬉しいのに、面と向かって嬉しいだなんて言えない私は、こうしてつい憎まれ口を叩く。
あ…これもベタな少女漫画っぽいな…。
『家すぐそこじゃん。美味しいご飯が待ってるんじゃないの?』
「良いだろ。好きなんだから」
『へっ…?』
しまった。つい反応しちゃった…。どうしよう。変に思われたかも…!
『そ、そんなに好きなんだ。うちのメンチ…。お父さん喜ぶよ〜』
誤魔化そうとヘラヘラすると、宏明は耳まで真っ赤になって視線を逸らし、小さな声でこう言った。
「メンチも、な」
『えっ…ちょ…今なんて…?あっ!宏明ってば!』
宏明は包み紙をグシャグシャに丸め、ゴミ箱に捨てると勢い良く身体の向きを変えてこっちを見た。
「…明日も来るからな」
そう一言残し、宏明は家の方に向かって歩いて行った。
ベタベタの少女漫画展開になりそうな予感しかないけれど、たまには王道も悪くないよね。
明日のメンチカツがハート型だったら、宏明は何て言うのかなぁ。
『ねぇ、お父さん。明日さ…!』
おわり