春、別れの季節。
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入学した時はそんな事微塵も考えていなかったのに、気付けば今日が俺にとって最も来て欲しく無い日になっていた。
あれは去年の四月、早くバスケ部の練習に混じりたくて朝練の時間を見計らい、入学式の日だというのに勝手に体育館に忍び込もうとしていた時だった。
『何してんの?』
背後から声がして、振り返るとジャージ姿の女生徒が立っていた。それには〝Basketball〟の文字が書かれていて、マネージャーさんだとすぐに分かった。
「あっ…いや!俺、怪しいもんじゃないっす!今日入学する一年で、バスケ部に入部するんでっ…その…」
突然の事に慌ててしまい、自分でも何を言っているのかよく分からずに、身振り手振り話した。その様子を見て、マネージャーさんはポカンと呆れたように立ち尽くしていた。
その時、ブワッと温かい風が地面から湧き上がってくるように吹き上がり、桜の花びらが舞った。そしてマネージャーさんの前髪もふわりと上がり、白い額と形の綺麗な眉毛が顔を覗かせる。
透明感のある落ち着いた印象とは真逆で、額が見えると少女のように可愛らしくて、俺は一瞬にして心を奪われてしまう。
『君、名前は?』
「き、清田信長ですっ!」
『立派な名前だねぇ。私は名字 名前。宜しくね』
顔を覗き込むようにするその仕草もやっぱり何処か可愛らしくて、俺のハートは見事に射抜かれていた。
この時から、俺の高校生活は名前さん抜きには語れないというくらい、たくさんの時間を共有していった。そして、想いを募らせていった。
それからは朝から夜までバスケ漬けの毎日で、中学までとはまるで違う世界にどっぷりハマっていった。喜び、悲しみ、悔しさ…今まで味わった事の無い感情で溢れる時は、いつも名前さんが側にいた。それが当たり前になりつつある矢先、今日を迎えてしまったのだ。
そう、今日は卒業式。
名前さんが、卒業する日。
もう体育館に行っても、あの笑顔は無い。
廊下で偶然すれ違う事も無い。
当たり前になりつつある日々が、急に当たり前じゃなくなってしまう。
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