みっけ!
今日はあの講義の日だ。
いつも5分前に席に着いていたけれど、熊との会話が楽しみになっていて10分くらい前には席に着くようになっていた。今日は小テストがある為か、周りの奴らは教科書やノートを見ながら備えている。俺は小テストよりもまずは返事を見ようと机に顔を近付ける。
『いつも返事おーきに!』
そう書かれていたのを見ると、ニヤニヤしてしまいそうになる。何だかんだで俺はこの熊に台詞を書いている人がどんな人なのか気になっていた。字の感じから女なのだろうとは思うが、面倒くさそうな感じはしない。まぁこの講義室の使用頻度を考えると、特定するのは無理に近いだろう。週に一度の楽しみってやつやな。そう思っていた。
返事を書き終えた所でチャイムが鳴り、いつもの教授が講義室に入って来た。その後ろをおそらく小テストであろう紙の束を持った女の人が着いて来た。研究室の大学院生だろうか。
その人は『まだ裏返さんといて下さぁい』とやる気の無い感じで言いながら、学生ひとりひとりに問題用紙を配り始めた。一方で教授は教壇にぼんやりと座ってるだけだった。何やねん、お前もやらんかい。そう思っていると俺の所にも女の人がやって来て、机に問題用紙を置いた。その時、ほんの一瞬だったが女の人の動きが止まった。不思議に思い顔を見ると、少し驚いたような表情をしていた…ような気がした。
それからテストが始まり、講義室にはペンを走らせる音がカリカリと響く。テストの内容は結局、問題集の問題を少し変えただけの物で、呆気なく解き終えてしまった。この教授、ホンマにやる気あるんか…?周りももう解き終えている人もチラホラいて、残り時間が暇やなぁ…とぼんやりする事しか出来ない。ふと前を見ると、さっきの女の人がパイプ椅子に座っていて、寒いのか膝に毛布を掛けていた。その毛布の柄を見て俺は一瞬思考が停止した。それは、机に描かれている熊にそっくりだったのだ。
もしかして、あの人が…?
しかしこんな大講義室で大学院生の講義なんてやるのか…?でもそっくりやぞ?そもそもあんな柄の毛布を持ってる人がこの大学内に他にいるか…?
それからテスト終了のチャイムが鳴るまで、俺はずっとそんなことを考え続けていた。急に心臓がバクバク言い出して、女の人を見ている事が出来なくなってしまった。
.