みっけ!
この講義室は階段状になっているからなのか、とにかく足元が冷える。春先と秋冬はブランケットが手放せないくらいだ。
そもそも講義を受けている学生の数に対する講義室の選定がオカシイ。大学院生にもなって何故こんな大講義室の講義があるのか、もしかして物凄く人気の講義なのか…?なんて思った私はハッピー野郎で、ただ単に他の講義室が空いていなかったからという理由らしい。ハッピーどころか運無し野郎やんけ…。
しかもこの先生ときたら、同じ話を何度も繰り返すタイプ。それさっき言うたやないかい!!って新喜劇みたいにツッコミたくなるくらいだ。どうもこの先生の講義は効率が悪くて、頭の回転がストップしそうになる。ついつい寝てしまいそうになった私は、机の端にブランケットの模様でもあるゆるゆるのウォンバットを描いて睡魔と闘っていた。
それが、先週のこと。
そしてまた同じ曜日の同じ時間になり、いつもの席に着いてウォンバットのブランケットを膝に掛ける。ふと、先週描いた絵を見ると何やら狸のような絵が追記されていた。しかも「ホンマやな」と言っている。
ここで講義を受けているということは、学部生だろう。学部生は基礎を学ぶんだから、ちゃんと聴いとかなアカンやろ!なんて思ったりもしたが、院生である私が最初にラクガキをしたのだからそう言う筋合いは微塵も無い。
しかしきっとコレを描いた人も、睡魔と闘っていたのだろう。ある意味私たちは同志…かな。なんて思い、少し嬉しくなってウォンバットの絵の台詞を消して「講義に集中せえ!」と書いておいた。
それからは、今まで全くやる気の無かったこの講義に出るのが楽しみになっていた。私がウォンバットの台詞を書くと、狸さんが返事をくれる。
「腹減った」 『我慢せえ』
「教授のチャック開いとる」 『wwww』
ほんの些細な事だけど、プッと笑えるようなこのやりとりをしているだけで心が軽くなる気がした。
そうなってくると人間というのは非常に愚かな生き物で、狸さんが一体どんな人なのだろうと気になってきてしまった。しかし、この講義室は複数の学科の学部生が主に使用するため特定するのは難しいし、何より私も研究やら講義やらでこの講義室に張り付いている訳にはいかないのだ。だから週に一度の楽しみ、それくらいに留めておくことにした。
そんな日々が続いたある日、研究室の教授に講義のアシスタントを頼まれた。今日は小テストをするらしく、答案用紙の配布や回収を手伝うように言われている。同じ薬学部の学部生の講義で、場所はあの講義室だった。うちの大学は総合大学で、文理合わせてたくさんの学部がある。その内の一つの学部のしかも学年の数も考えると、狸さんがその講義に出ている確率は数%の確率だ。それでもどこか少しだけ期待してしまう自分がいるのだった。
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