穏やかに、まんまるに。
そのまま目が覚めて、俺はすぐにあの場所に向かった。俺がこんなに早起きするなんて奇跡に近い。
一直線で川に向かい、覗いてみる。
透き通った綺麗な水がサラサラと流れていて、川の底まで見えている。小さな魚がちらほら見えるが、まんまるはいない。
俺の身勝手な行動でまんまるに苦しい思いをさせてしまった。
無事なのか、ただそれだけが知りたい。そう思いながら、俺は指先をそっと川の水に入れた。
「まんまる…ごめんな……」
自然に声が出ていた。哀しいくらい綺麗な水面に、愚かな自分の顔が映る。するとそこに何かふわふわと飛んで行く物が映った。顔を上げると、あのピンクの花びらのような物だった。すると突然、強い風が吹いた。目を開けていられないほどだが、風に乗ってあの花びらが大量に吹き抜けていくのが分かった。
何だ…?何が起こっている…?
ようやく風がおさまり、俺はゆっくりと目を開ける。背後に気配を感じて振り向くと、そこには女の人が一人立っていた。
ここで自分以外の人間を見たのは初めてだ。俺が言うのも何だが、こんな時間に何をしているのだろう。
大きな目が印象的で、ピンクのロングスカートがヒラヒラと風に靡く。
「あ…どうも…えっと…あの…」
困惑しながら声をかけると、その女の人はコテンと首を傾げながらニッコリ微笑んだ。
それを見た俺の直感がピンと音を立てる。
「…まんまる……なのか…?」
馬鹿げた事を言っているのは重々承知だ。でもそうである気がしてならない。
暫く見つめ合うと彼女は何も言わず、コクリと頷いた。俺の感情は一気にふるふると高まっていく。
「あの…俺…勝手に連れて帰って苦しい思いさせちまって…悪かった。それだけどうしても伝えたかったんだ。本当に無事で良かった…」
すると、彼女は俺に近付いてきて優しく手を取り、人差し指の腹を撫でるように手を擦り合わせた。
『この優しい手、大好き』
その声は川のせせらぎのように美しく、澄み渡っていた。この場所にいる時と同じような穏やかな気持ちになれる。
「また会えるかな」
『うん。此処で待ってるから』
すると再び風が強くなり、あの花吹雪が俺を包む。ゆっくりと握っていた手が離れていくのが分かる。
「まんまる…っ…!」
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