穏やかに、まんまるに。
数日後
まんまるは相変わらずコロコロしていて愛らしい。ふと、そろそろ水槽の水を替えてやろうと思い立ち、水槽と一緒に買ったカルキ抜きで新しい水を作った。そしてゆっくりとまんまるを新しい水に入れる。変わらずコロコロと泳ぎ、餌もしっかり食べてくれてホッとした。
片付けをした後シャワーを浴びた。ほんの10分くらいだったと思う。風呂場から出てくると、まんまるの動きが明らかにいつもと違う事に気が付いた。
水……やっぱりあの川の水じゃなきゃダメなんだ…!
俺は水槽を抱え、急いであの場所に向かった。その間、早く川の水に入れてやることしか考えていなかった。
いつもはのんびり辿り着くこの場所にこんなにもダッシュで来た事はなかった。息をするのも忘れるくらい、夢中で川に向かう。
あと少し。
まんまる、頑張れ…!
そう思った途端、焦っていたせいか水槽が勢い余って傾いてしまう。すると、まんまるが水槽から飛び出てきて、宙に浮いた。
しまった…!
もうダメだ、と思ったその時、まんまるが俺の唇に一瞬だけくっついた。その瞬間はスローモーションのようで、ハッキリとまんまるの顔が見えた。そして、俺にぶつかった反動でまんまるは弧を描いて宙を舞い、吸い込まれるように川の中へ落ちていった。
ちゃぽんっ…と高い水音がし、その後はまたすぐにいつもの穏やかな空気に戻った。
それから暫くその場にいたが、どんどん陽が暮れていくだけだった。俺は何も出来ず、その日は帰る事にした。
その夜、夢を見た。
まんまるがあの水槽の中にいて、俺の指に反応してコロコロと近付いてくる。
そうだ。まんまるは俺の指が好きなんだっけ。
あの川に手を入れたら、まんまるは寄ってきてくれるのだろうか。
明日は朝練があるから、その前にあの場所に行ってみよう。
まんまる、もう一度だけ会いたいよ。
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