穏やかに、まんまるに。


久しぶりに来てみると、そこだけ時間が止まっているように景色はあまり変わっていない気がする。

川の流れる音が心地良い。

俺は椅子を置いて、ぼんやりと釣りを始めた。


暫く時間が経っても案の定、何も釣れない。しかし自然のマイナスイオン…?的な何かのおかげなのか、この場所にいるだけで身体の疲れが吹き飛んでしまうくらい癒されていく。

ふと見ると、目の前をピンク色の花びらのような物がふわふと舞っていった。今は桜の時期では無いはずだが…?と思ったが、この場所ではこういう不思議な事が起こってもおかしくはない気がする。

その花びらを目で追っていると、突然、釣り竿が引き始めた。

引き具合的にあまり大物ではなさそうだが、この川にはどんな魚がいるのだろうとワクワクしながらゆっくりと引き上げる。


「えっ…ウソ……」


思わず声を出してしまった。だって引っかかっていたのは綺麗なピンク色をしたまんまるの魚だったからだ。川の魚というより、観賞用の金魚に近い。

やっぱりこの場所には何か不思議なパワーがあるんだ、と思いながら俺はそのピンクのまんまるを川の水と一緒に連れて帰ることにした。


帰りに水槽と餌を買った。THE金魚鉢、みたいなやつで、同じようにまんまるな形をしたやつだ。

家に帰って早速水槽に川の水ごとまんまるを放した。コロコロまるくて水の中でも転がるように泳いでいる。

水槽の外側に指を当てると、ゆっくりと近づいてきた。

まんまるを見ていると、自分の部屋なのにあの場所にいるような気になって心地良かった。ずっと見ていても飽きなくて、結局その日は外に出る事はなかった。




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