生きやすく、鮮やかに。
来た道を戻ろうとクルリと方向転換した時、一瞬目の前が真っ暗になった。そして次の瞬間に見えたのは、自分の部屋の天井だったのだ。
あれ…?俺は電車に乗って出掛けたはずじゃ…?
日付と時間を確認すると、会社に休暇を申請した日から二日が経っていた。
夢だったのか?
それなら翌日ならまだしも、二日後だぞ…?二晩寝続けたって事か…?
考えても全く覚えがない。とりあえず、水でも飲もうとベッドから立ち上がったその時だった。
カサッと乾いた音が鳴り、ふわふわと何かが落ちた。
それは発色の良いエメラルドグリーンのような色の広葉だった。
そう、間違いなく〝あの木〟の葉だ。
『またね、フジマケンジ』
音がしたような、頭に直接響いたような、そんな風に彼女の声を認識をした。
「次は絶対名前教えてもらうからな」
そう言うと、葉が風も無いのにふわふわと床の上を回り、静かに、まるで尽きるかのように動きを止めた。
気付いてしまった。
次に彼女に会うのは、きっと俺がこの葉のようになる時なのだろう、と。
俺があの場所に行ってしまった理由を知っているのは彼女だけなのだろう、と。
ありがとう。
貰った時間は、必ず生きやすくしてみせるからな。
あの湖のように、鮮やかに。
おわり
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