生きやすく、鮮やかに。


話し終えると、女はジッと俺の顔を見つめた。

ずっと俯きがちで分からなかったが、湖と同じように青みを帯びた黒い瞳が綺麗だった。

一度捉えられると、吸い込まれそうになる。


『でも、その見た目はフジマケンジの一面に過ぎない。見た目以上の魅力がたくさんあるって事が伝えられたら、もっと生きやすくなるかも』


魅力を伝える…?


そんなの考えた事も無かった。自分を分かって貰えないのは、周りがバカだからとか、分かる奴に分かれば良いとか思っていた。

別に万人受けしたい訳ではないが、勝手なイメージを持たれるのはもう御免だ。それに、そんな事でイライラしてしまう自分がアホらしくなる程、景色と彼女の瞳が美しい。


「俺、帰るわ。もう少し生きやすくなれそうだし」


そう言うと、女は優しく柔らかく微笑んだ。どこか安心したようにも見えた。


「なぁ、アンタ名前は?」

『それは次に来た時に教えてあげる。今はまだ聞かない方が良い』


よく分からないが、俺はまたここに来ることになっているらしい。それならまあ良しとしよう。


「んじゃ、行くわ。ありがとうな」

『またね、フジマケンジ』


俺の名前を呼ぶ声が拡散しながら身体全体を包むような気がした。ふんわりと柔らかい絹のベールに包まれたような心地良さがあった。



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