生きやすく、鮮やかに。


晴れて自由の身になった俺はただどこか遠くに行きたくて、フラッと来た電車に乗った。

時間が経つにつれ、景色はどんどん緑が増えていく。何となく陽の光が明るいような気がして、俺は次の駅で降りることにした。

改札を出ると細い道路があり、車は走っていない。冬だというのに、何だか春のような陽気が漂う。俺は少し歩いてみることにした。

ひたすら真っ直ぐ進むと、大きな木が見えてきた。近付くとその大きさに圧倒される。まさに〝この木、何の木?〟の世界そのものだった。

普段あまり自然の景色を見て綺麗だと思うタイプではないけれど、本当に美しい物を見るとこんな俺でも感動するんだと思った。


『お兄さん、見掛けない顔だね』


ふとどこからか声がしてキョロキョロと見渡すが何処にも姿は確認出来ない。


え…まさかこの木が喋っ……


と思った瞬間、太い木の幹の影からひょっこりと小柄な女が出てきた。

冬なのにコートも羽織らず、白いワンピースと短く切り揃えられた黒髪がヒラヒラと風に舞う。


「人、いたんだな。てっきりここは無人の村か何かだと思ったよ。民家っぽいのも無かったし」

『…どうしてこんな所に?』

「いや、何となく成り行きで」

『ふぅん…。こっちでもっと綺麗な景色が見られるよ。着いて来て?』


女はそう言って歩き出した。

俺は別に綺麗な景色を見に来たんじゃねーっつーの…と言いたい所だったが、自然と身体が動き、女を追いかけていた。




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