前編
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クリスマスパーティー当日
金曜日の夜ということもあり、街は人が多い。仲睦まじく寄り添って歩くカップルは、どんなイルミネーションより輝いて見える。
待ち合わせは会場のロビーだった。この場に着いた瞬間から、私たちのお芝居は始まる。久しぶりに横に並んで歩いた。エレベーターに乗り込み、二人だけになった途端、旦那はこちらを見もせずにこう言った。
「ピアス、派手だぞ。外せ」
『……』
パール調の少し大きめの石が可愛いピアス…特別ギラギラしている訳でもないが、ここは大人しく言う通りにしよう。私は何も言わずにピアスを外し、バッグの中へしまい込んだ。
そして、エレベーターのドアが開く。
その瞬間、夫の顔付きが一気に変わったのを見て吐き気がした。
すぐに部長だと言う男に声を掛けた。隣りには、いかにもな感じの女が立っている。
「お!こちらが噂の奥さんか。外資系でバリバリ働くキャリアウーマンで、外車を乗り回すっていう。美人じゃないか!羨ましいなぁ」
「ありがとうございます。よく気が付く良い妻ですよ。僕には勿体ないくらい」
何を言うかと思えば、よりによって私を持ち上げるだなんて…どの口がそんな事を言うのだろう。もうこの時点で耐えられそうにない。あとどのくらい、一歩後ろを下がって歩く良妻を演じていなければならないのだろうか。
烈は今日もバイトかな……。
烈のことを考えていれば、頑張れる。そう思っている私に早くもトドメの一撃が降って来る。
「奥様のような、煌びやかさは無いですからねぇ」
お偉いさんの奥様より目立つなと言われた。だから服も地味めなのを選んだし、メイクもナチュラル寄りにした。ピアスも外せと言われた。
言われた通りにしたのに、貶される。
世間体を気にして別れてくれないのに、世間に向けられる私は良いようにもされない。
何が面白くて笑顔を作っているのだろう。
何でこんな思いをしてまでここにいなきゃいけないんだろう。
ギュッと押し込まれた栓がペンチでこじ開けられたみたいに、急にパーンと私の中で我慢が弾けた。そして、私はグンと身体の向きを変え、走り出していた。
一度も振り返らなかった。
どうせ逃げるなら、少しでも烈に近付くように東へ行こう。
何だか、身体が軽くなった気がした。
続く