休日の始まりはチラシの裏から
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一成は何も言わず、肘をついて黙って見ていた。ペン先を優しく見つめる目、纏った長いまつ毛が好き。
絵心が無いなりに描いてみる。
あれと、これと、それから……
『よし、できたっ!』
ペンを置くと一成が私の方に寄ってきて、覗き込んだ。肩がギュッと潰れるくらい近い。
「名前……なかなかの画伯ピョン」
『それって褒めてるんだよね…?』
「……この紙吹雪みたいのは何だピョン?」
『今の間、何よー!もう…これは紙吹雪じゃないよ。5億円だよ?空から降ってこないかなぁ〜って思ってさ』
「…これは?石?」
『時計だよ…時間が欲しいなって……って!私そんなに絵心無い?!』
「いや……抽象画だと思えばイケるピョン。芸術に正解は無いピョン」
あまりフォローになっていない気がするが、まぁ良しとしよう。
『じゃあ次は一成の番ね』
私がペンを渡すと、一成は迷わず何かを描き始めた。本当は最初から自分が描きたかったんじゃないの…?なんて思った。
それにしても、ペンを持つ長い指が凄く綺麗で見惚れてしまう。一成の指は男っぽいゴツゴツしているけれど、長くて色白の肌に少し女性的な印象も感じられて不思議だった。
せっせと描いているのは人の顔みたいだけど、何だろう…。珈琲を飲みながら黙って見ていると、少しして「できたピョン」とペンを置いた。
『これ、何…?』
そこには人間っぽいのが二人?と、木や花、ワイングラスのような物がポツポツと描かれていた。そしてよく見ると、私が描いた5億円が二人の頭上に降ってくるような絵になっていた。
「これが名前、これが俺。景色の良いホテルで美味しい物を食べて、5億円を浴びながら酒を飲むんだピョン。これが俺の欲しい物だピョン」
満足そうに、誇らしげに一成はそう言った。
嬉しかった。
一成の欲しい物に、私が一緒なことが。
私の欲しい物が、一成の欲しい物を構成していることが。
結婚を決めたのは、この人と一緒なら気を張らず、ずっとのんびり楽しく過ごせると思ったから。
二人なら面白い生活を作り出していけると思ったから。
やっぱり私は間違って無かったんだ。
『いつかゆっくり休み取って、この絵みたいにしたいね』
「5億円はどうするピョン?」
『年末ジャンボに賭ける』
「ハハ…じゃあ後で買いに行くピョン」
『うん。そうしよ。夢への一歩だね』
私は再びペンを持ち、一成が描いた私に吹き出しと台詞を付けた。
〝好き♡〟って。
描き終えると、長い腕が伸びてきて引き寄せられ、甘いキスが降ってきた。
現実でも夢でも、側にいさせてね。
休日も二人の生活も、まだ始まったばかりなんだから。
おわり
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