恋するマネキン人形



「あの…このワンピース、素敵なので着せてあげて下さい」


脱がされる前に、彼が別のワンピースを持って来て店員さんに渡した。鮮やかなワインレッドのパーティドレスだった。


「ありがとうございます。そうですね…うん…良いですね。では早速!セットアップの方をお包みしますので、店内をご覧になってお待ち下さいね」


店員さんがそう言うと、彼と彼女は店の奥の方に行った。


彼が私に服を選んでくれた。



嬉しい!



夢みたい!



そして新しくコーディネートされた私は、再びショーウィンドウに飾られる。店員さんは本当にセンスが良い。このドレスが一番綺麗に見えるもの。



少しして、ショッパーを持った彼女が嬉しそうに外に出て来た。少し遅れて彼も出て来る。そして、いつものように彼はショーウィンドウの前で脚を止める。

少しの間、服や小物を眺めた後、また私の顔のあたりを見て小さな声でこう言った。




「また明日、仕事終わりに来るね」




「お兄ちゃん、何言ってんの?」

「んー?何でも無いよ」


お兄ちゃん…?


彼女じゃ、無かったんだ…!



彼の背中を見送りながら、私は嬉しくて大声で叫びたい気持ちになった。


もちろん、声を出すことは出来ないけれど…。



悲しくはない。


今日からは彼が選んでくれた、このドレスがあるから。



待ってるからね。




私の叶わぬ恋は、明日も続く。





おわり


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