恋するマネキン人形
それからも、彼は仕事帰りに私の所に来てくれた。
あなたは何ていう名前なの?
どんな声で話すの?
どうして毎日来てくれるの?
聞きたいことはたくさんある。けれど、私はただのマネキン人形。名前も無いし、声を出すことも微笑むことも出来ない。
でも、あなたを想うことは出来る。
今日は休日だから、彼は来ない日だ。街行く女の子たちは素敵な彼と腕を組んだり、手を繋いだりしながら並んで歩いている。お洒落をして、楽しそうに、幸せそうに。
もし私が人間に生まれていたら、あんな風に彼の隣りを歩いていたのかな…。
そう考えていた時だった。
彼が来た。
女の子と一緒に。
「ほら、コレ」
「うわっ!ホントだっ!!店舗もネットでも品切れだったのに〜!こんなオフィス街にあるなんてっ!」
彼の隣りにいるのは目が大きくて、明るくて、可愛らしい女の子だ。素敵な彼と、とてもお似合い。
そうだよね。こんな素敵な人に、相手がいない訳ないよね。
分かっていたはずなのに、見てしまうと気持ちが置いてけぼりになりそうになる。
すると、今度は背後からさっきの女の子の声がした。
「コレですっ!このセットアップ下さい!」
「人気商品で現品限りですが、宜しいでしょうか?」
「はい!ずっと探してたんです〜!」
このセットアップを買うんだ…。
よりによって、彼の彼女が…。
彼が見ている前で、私は服を脱がされてゆく。
嫌だ。
止めて。
見ないで…!
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