恋するマネキン人形


いつものように仕事を終えて、帰るだけの毎日。淡々とこなしているだけなのに、周りは仕事ができるだの何だの騒いでいる。そんな面白みの無い会社員生活に飽き飽きしていたある日、大きなショーウィンドウのマネキン人形が視界に入った。


何故かは分からないけれど、俺は脚を止めて見ていた。

表情は変わっていない。

動いている訳でもない。

それでも何故か気持ちが温かくなるような気がした。自分の気持ちが沈んでいるからそう見えるのだろうか。とにかく、感じたことのない不思議な気持ちになった。


それから、敢えてそのショーウィンドウの前を通って帰るようになり、必ず立ち止まって眺めることが習慣になっていた。そしてこの日は、何だかいつも助けられているこのマネキン人形に妙な親近感が湧き、心の中でこう呟いた。


(いつも、ありがとう)


気付けば俺は、微笑んでいた。素直に感謝を伝えたいのと同時に、自分がしていることがよく分からず何だか可笑しくなってきたからだ。



心なしか、マネキンが喜んでいるように見える。



なんて、な。


やっぱり疲れているのかな…。



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