恋するマネキン人形


大通りのセレクトショップの大きなショーウィンドウの中には、トレンドの衣服を纏うマネキン人形が飾られている。来る日も来る日も街行く人たちを眺めつつ、いかに服やアクセサリー類を綺麗に魅せられるか、という使命感を持って彼女は立ち続ける。

これは、そんな心を持ってしまったマネキン人形の恋の話である。





(あ…またあの人、私の事見てる…)


ここ何日か、毎日一人の男性が立ち止まって私をジッと見ている。まぁ、正確には私が着ているお洋服を見ているんだけどね。今、私が着ているのはクリスマスデートにピッタリなコーディネートだ。キャメル色のニットのセットアップにネイビーのノーカラーコート、靴はレザーのショートブーツ…こんなに素敵なのだから見惚れてしまうのも分かる。綺麗なお顔立ちだけれど男性…ということは彼女へのプレゼントかな…。彼が立ち止まる度に、私はそんな風に考えていた。


夕方になると、この季節はもうすっかり暗い。私を照らすライトも早めに点灯される。


(そろそろかな…)


そう思っていると案の定、いつもの彼がやって来た。仕事を終えて帰る途中なのか、少しくたびれた様子で今日も立ち止まり、こっちを見ている。


彼はどの服が好みなのかな。


やっぱりこのセットアップかな。


彼女はどんな人なのかな。


きっと素敵な人なんだろうな。



そう思っていると、彼が私の顔辺りに目を向けたと途端、優しく、柔らかく、にっこりと微笑んだのだ。



えっ……ちょっと待って……?



誰かにこんな風に笑顔を向けられる事なんて無かった。道行く人たちは皆、私が着ている服を見るだけ。私は服を売る為のただの立体で、こんな風に感情を持っていることも気付かれていない。



なのに、何で…?



この日、私は名も知らぬ彼に恋をしてしまった。だからと言って何も出来ないけれど、想うだけなら…良いよね?



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