今更、青春
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もうすぐ、文化祭がある。
私の学校では、文化祭の中でクラス対抗の合唱コンクールがある。学年毎に課題曲が設定され、自由曲はクラスで決めた物を歌う。
学年毎に金・銀・銅賞が選ばれ、指揮者賞、伴奏者賞なんかもある。噂ではクラス分けの際に、各クラスにピアノが弾ける人が必ず一人はいるようにしているとか何とか…。
私は今年も伴奏をすることになっている。3年生の課題曲は、毎年同じ曲をアカペラで歌うことになっているため、今年は自由曲を練習するだけで良く、気が楽だった。
放課後、私は先生の許可を得て音楽室のピアノを借りて練習することにしていた。私のクラスで選んだ自由曲は少し切なく、流れるような伴奏の曲だった。最後の合唱コンクールということもあり、どうせなら賞を取りたいと思っている。皆の歌声をより美しく響かせるような伴奏にしたい。そんな気持ちで取り組んでいた。
誰もいない音楽室は妙に広く感じた。そのせいか、ピアノの音も遠くまで響いていくような気がする。スゥッと息を吸い、フゥと息を吐く。そして、初めの和音を鳴らす。
── ♪
前奏が綺麗だと、聴き手の意識がより音に集中する。昔、ピアノの先生が言っていたことだ。だから前奏は特に音を大切に鳴らさなければならない。
途中で間違えたり止まったりしながらも、何とか最終節までいけそうだ。そして、最後の音が響き、ピアノから手を離すとパチパチと拍手をする音が聞こえた。見ると、入り口に同じクラスの仙道くんが立っていた。
「名字さん、凄いねー。俺、感動しちゃった」
仙道くんはいつもニコニコしていて、でもちょっぴり冷めているような、達観しているような、他の男子とは少し違う雰囲気を持っている。2年の時から同じクラスだったが、話したことがあるのは数える程度しかない。
『仙道くん、何でここに?』
「んー、ちょっとウロウロしてたら綺麗なピアノの音が聞こえたからさ。覗いてみたら名字さんが弾いてて驚いたよ。今の、何の曲なの?」
ニコニコと話す仙道くんは、どうやら本気で何の曲か分からないらしい。
『合唱コンクールの曲だよ。この前の音楽の授業で皆で決めたでしょう?』
「あー…そうだっけ?俺、寝てたからよく分かんないや。ハハハ」
『仙道くん、今年もサボる気マンマンなんでしょ?』
「あれ、俺がサボったってバレてたんだ。もしかして、俺のこと気に掛けてくれてんの?」
『えっ…!そ、そんな…』
どうしよう。〝そんなことない〟と突き離せば傷付けてしまうかもしれない。でも肯定すれば変な風に取られてしまうかもしれない…。考えていると、仙道くんがプッと吹き出して笑った。
「名字さん、面白いなぁ。こんなことならもっと早く仲良くなりたかったなぁ」
その言葉で私は仙道くんが卒業後、神奈川の高校に行くことを思い出した。バスケが上手い仙道くんは、監督にスカウトされたらしい。他県から声が掛かるだなんて相当凄い選手なのだろう。そもそも、まだ15歳で親元を離れて暮らすだなんて私には出来ない。
『仙道くんの方が面白い人だと思うな。きっと私なんて手の届かないような凄い人になるんだろうね』
「俺は、俺だよ。名字さんの同級生だってことに変わりない」
少し寂しそうに微笑む仙道くんを見ると、何だか胸がギュッと締め付けられた気がした。まだ卒業する訳でもないのに、急に寂しさが込み上げてくる。
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