02:ネイビーのフラットシューズ
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大学を出て社会人になって2年目の秋、それまで実家から通勤していたが、金も貯まってきたことだし一人暮らしをしようと部屋を探していた。そんな時、マンションを所有している親戚が海外赴任になるとかで、その部屋に住んで良いことになった。ただし、大家代行として。大家と言ってもよっぽどのことがない限り特にすることはない。それに何かあれば親戚に連絡することになっているため、実質は一人暮らしをしているのと何ら変わらない。むしろこんなに広くて綺麗なマンションに俺の給料じゃとてもじゃないが住めないから、ありがたい話だ。
引っ越し業者が荷物を運ぶ傍らで、親戚が置いていった住人リストを眺めていた。この部屋は角部屋だから隣りは一部屋だけで、どうやらカップルが同棲しているようだ。一応、挨拶くらいしなければ…と思い、俺はふらっと外に出た。すると、彼女の方がたまたまナイスタイミングで帰って来た。小柄で少し控えめな雰囲気だ。服装も清楚な感じで、まさに世の男たちが好きそうな〝可愛い奥さんタイプ〟という印象だった。
「あの、俺、今日からこの部屋に住む岸本です。大家の親戚で、暫く大家代わりやらして貰います。宜しくお願いします」
『名字と申します。こちらこそ、宜しくお願いしますっ』
名字さんはぺこりとお辞儀をした。動きまで可愛らしい。そしてたくさん買い物をしてきたのか、パンパンの袋を持っていることに気が付いた。
「そないぎょーさん買い物して、何美味いモン作りはるんですか?確か彼氏さんと住んではりますよね?羨ましいなぁ」
『いや、そんな大した物作る訳じゃないですよ…』
困ったように眉毛を八の字に下げ、小さな手をヒラヒラと振っている。何だかずっと見ていても飽きないくらい、本当に可愛らしい人だ。ボケッとしていると、引っ越し業者が俺を呼び、現実に引き戻された。
「彼氏さん、幸せモンやわ。あ…もう行かな…ほな、また!」
パッと手を挙げると、名字さんはニコニコしながら会釈をしていた。とりあえず、隣りが良さそうな人で安心できた。
業者が帰った後、ひたすら片付けをして何とか一通り終えることができた。ふと時計を見るともう19時を回っていた。さすがに腹が減ってきたが、今から何かを作る気力は無い。今日はもうコンビニで済ませよう。そう思い、俺は財布だけを持ち、玄関を出た。すると、何だか物凄く良いにおいがした。換気口が通路側についているため、においがこちらにきているのだ。空腹の俺には何とも耐えがたい。きっと名字さんが彼氏の為に一生懸命作っているのだろう。
(ええなぁ…ホンマ、羨まし…)
自分にもいつかそんな恋人ができたら、なんてらしくないことを考えながら、俺はコンビニに向かった。夜はもうたいぶ冷えるようになった。
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