06:北欧テイストのスリッパ



「何、笑ってんの?」


突然、私の様子が気になったのか彼氏が話しかけてきた。こんなこと、今まで無かったことだ。


『ちょっと友だちから面白いメッセージがきて、笑っちゃった』


そう言うと、彼氏は私の方をジーッと黙って見ていた。


『な、何…?』



「最近、何か変わったよな」


この言葉は只の音ではなかった。字面だけ見ればプラスにも捉えられるが、今の言い方は確実にマイナスの意味だ。


楽しそうにしちゃ、ダメってこと…?


それじゃあ今までの冷たい態度の原因は何だったの?生活費は折半で、家事は全て私がやって、関係を良くしようと努めても突き放され、挙句、友だちとのやりとりで笑っただけでダメ出し…?


いつもなら落ち込むだけの私だが、今日初めて新しい感情を持った。



馬鹿にするな……!



今までの我慢が限界を迎えたのか何なのかはよく分からないけれど、私の身体はワナワナと震えている。今、口を開けば思っていることを全部言ってしまいそうだ。


落ち着け……。


ふと、顔を上げると窓ガラスに洗濯物を畳む自分が映っていた。その表情は怒りに満ちていて、物凄く醜いものだった。それが分かると、急に熱がスーッと引いていった。


彼氏のなんて事のない、たった一言でここまでヒートアップしてしまう自分が情けなかった。



(こんなだから、冷たくされちゃうんだ…)



洗濯物を畳む為に隅の方で脱いだ、北欧テイストのスリッパも窓に映っている。


こっちにおいでよ。


逃げ出そう?



そう、呼んでいるような気がした。




続く

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