ピアス、口紅、眼差し
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そして気付けば目的地の小学校に着いていた。もちろん今日は休みで誰もいない。
『ここに来て何するの?勝手に入る訳にいかないし…』
「俺さ、あの頃ずっと名前と一緒に帰りたかったんだよ」
『え?』
想像もしていなかった内容に私は驚いた。
「1年だけだけど、唯一同じ学校に通ってただろ。だから、中から門を通って一緒に帰りたかった。でも俺は1年生で名前は6年生…帰る時間がいつも違ってただろ。だから…」
健司は家の方に向かって歩き出した。
大人として見られたいと言っていたのに、何故こんなことをするのだろう…私は何だか腑に落ちなかった。
暫く行くと通学路とは違う道を行き始めた。私は黙って着いて行く。そしてある所で、健司の足が止まった。
「ここ」
『えっ…な、何ここ…』
健司が指差した方を見ると。一面に鮮やかな色の花が咲く野原が広がっていた。風に花が靡き、空の色も澄んで見える。まるで別世界だ。
「あの頃ここから家に帰る時、いつか絶対名前に見せたいって思ってたんだ。それを考えると、見慣れたはずの街並みが明るく見えたのが不思議だったな…」
「そう、なんだ」
あの小さかった健司がそんなことを考えていただなんて全く気が付かなかった。胸がグッと締め付けられる感じがした。
「名前のせいで、やりたいことだらけになっちまってさ。俺の未来はどんどん大きくなってったんだ。だから…」
『だ、たから…?』
「責任取って、これからはずっと俺と一緒に歩けよな」
握られた手が熱い。
『そ、それって…』
「今すぐ、役所に行こうぜ」
ニッと笑みを見せ、その手には1枚の紙が持たれていた。
『ちょっと…!まだ付き合ってもないのに…それに大体、まだ学生でしょう?』
「〝学生結婚〟って言葉があるだろ」
『で、でも…』
健司は私の手を引き寄せた。顔が近くて、見たことも無い程、真剣な目をしていた。
「もう待つのは嫌なんだよ」
今度はあの夜みたいに、熱いキスが降ってくる。あまりの熱さに、やっぱり私はメロメロにされてしまう。
(あ…健司の唇に口紅が…)
優しく指でなぞると、リップが薄く伸びた。あまりにも綺麗で驚いた。
『健司、あのね…』
「何だよ」
『もっと健司が思い描いた〝未来〟を見せてよ。それに…』
「それに?」
『私、判子持ってないや』
「……俺も」
誰彼すき間を抜けて
おかしな秘密の場所へ
君と行くのさ
迷わずに
待っていてね。
もう少しだから。
おわり
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