この手で、いつか
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そんなことがあって迎えた今日、私は魚住さんの電話を取った。
『もしもし…?』
「もしもし…今からちょっと出て来れないか?」
魚住さんに近所の公園に来るように言われた。何だろう…別れの言葉を言われてしまうのだろうか…。私はあまり明るくない気持ちで、公園に向かった。
公園に着くと、もう魚住さんが来ていた。魚住さんが座るベンチに私も腰掛ける。
「向こうに行く前にコレを渡したくてな」
魚住さんは小さな風呂敷包みを差し出した。
『開けてみても良い?』
「おう」
丁寧に包まれたソレをゆっくりと開けた。小さな重箱が出てきた。そして蓋を開けると中には出汁巻き玉子が入っていた。
「それは俺が初めてお客様に出すことが許された料理だ」
薄い黄色の絹が何層にも折り重なって、断面にはきっちりと線を引いたように渦を描いている。
「俺はいつも何か躓いた時、これを作って初心を思い出すんだ。頑張って、頑張って、ようやく親父に認めて貰えたあの日を思い出して、また頑張ろうと思うんだ」
『思い出の一品なんだね』
「だから名字さんへの花向けはこれにしたくてな。そして向こうで何か躓いた時、思い出してくれ」
『ありがとう……めちゃくちゃ嬉しい』
「俺も、もっとお客様に喜んで貰えるように頑張る。だから、名字さんが一番最初に売ったデザインもいつか見せてくれ」
『うんっ!約束するね』
思わず微笑むと、魚住さんは照れくさそうに目を逸らした。
「出汁巻きだけじゃなく、俺のことも思い出してくれよな」
『えっ…?』
「いや…だから…その……俺はずっと名字さんを応援してるという意味で…」
顔を真っ赤にしながら焦る魚住さんは、何だか少し可愛かった。
『魚住さん』
「ん?」
『大好き!』
「なっ…!!」
さっきよりも真っ赤な魚住さんは、口をパクパクさせて立ち尽くしていた。
こんなエールを貰ってしまったのだから、頑張らない訳がない。いつかまた私のデザインが魚住さんの料理に使えたら…なんて、夢も出来てしまった。
それぞれの夢を追いかける。
またいつか、あなたに会って新しい物語を一緒に紡ぎたい。
翌日、新大阪駅を出てすぐに空を見上げた。
『好きだよ』
この空の色を、私は忘れない。
おわり
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