この手で、いつか
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明日、私は大阪に引っ越す。
新入社員として、大阪の事業所に配属された。やっとの思いで掴んだ内定で、増してやイマドキ勤務地を限定するような学生に採用の風は吹かない。つまり大阪に行かざるを得ない状況でしかなかった。
生まれも育ちも神奈川県、幼稚園から大学まで全て神奈川県で完結していた私の人生が広がってゆくことは素晴らしいことだとは分かっているけれど…今更、しかも大阪だなんて…。楽しみより、不安の方が大きかった。
今日は地元で過ごす最後の夜だ。特に何か予定がある訳では無かった。明日着ていく服をハンガーにかけていると、突然、携帯に着信があった。
〝割烹・魚住〟
と表示されていた。私はこのお店の若大将と仲良くさせて貰っている。
数ヶ月前──
何かの打ち上げで大学の教授が、ちょっと高くても良いから美味しい物が食べたいと言ったことでこのお店を知った。料理はどれも美味しくて、見た目も美しかった。
『この色合いを考えた盛り付け、素敵ですね』
「ありがとうございます。一番美味しく見えるように考えていますので…」
『私、デザイナーを目指してるんです。だから色合いの大切さとか、難しさってよく分かりますよ』
これがきっかけで、私は若大将と仲良くなっていった。先生もこのお店をとても気に入ったようで、行く時は必ず何人か学生を誘ってくれた。何度か行く頃には、年が近いということもあり、私と若大将は敬語を使わずに話す仲にまでなっていた。ある時、若大将が私にこっそりとこう言った。
「実は今、新メニューの盛り付けに悩んでいて…良かったらアドバイスを貰えないか?」
『わ、私で良ければ…!』
それから私は定休日にお店を訪れ、若大将と盛り付けを考えた。大学で勉強してきたことを活かすこともできたけれど、理屈だけでは表せない物もあることを学ぶことができた。
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