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規則

2026/08/16 01:08
※公序良俗に反する表現がありますが、そのような行為を推奨する意図はありません。
※勇は立場的には最も後輩です。これは勇が加入したばかりの頃のことです。

○寮 勇の部屋 リビング 夜

 インテリアはジャパンディーを基調としていて、部屋は清潔で整っている。
 勇、昴、テーブルを挟み、ソファーに向かい合って座っている。テーブルの上には書類の束、ジュースが入ったコップ、箱に入ったクッキー。昴はクッキーを食べている。
勇「わざわざ呼び出してすみません」
昴「いいですよ、お菓子をもらえたので」
勇「それ、全てもらっちゃってください」
昴「いいんですか。では遠慮しません」
 昴、クッキーの箱を自身の方へ引き寄せる。
昴「ところで話って何ですか?」
勇「昨日、寮の規則を読んでたんですけど、よくわからないルールがたくさんあって… 規則はちゃんと理解しておきたいので、丹羽さんに詳しくお聞きしようかと」
昴「そうですね、規則はわかっておいた方がいいです。先輩に何でも聞きなさい」
勇「頼りになります。ではさっそく…」
 勇、書類を手に取り、ページをめくる。書類の文章の一部にはアンダーラインが引かれている。
 勇、書類に視線をやりながら、
勇「この『他の住人の所有物を盗んではならない』『寮でマリファナを吸ってはならない』のところ、わざわざ書いてあるのには理由があるんですかね? 当たり前にやってはいけないことですが…」
昴「(表情を変えずに)わざわざ書かないとやる人がいますからね」
勇「えっ、いるんですか? だって窃盗と大麻ですよ? 犯罪ですよ?」
昴「はい、いますね。しかも規則として定めてからもいまだに守られていませんね」
勇「…大丈夫なんですか、この寮?」
昴「マリファナの人は慎ましく吸っているので大丈夫です。他人に勧めることもありませんし。窃盗の人は気を付けてください。文房具や傘くらいなら盗まれて当たり前と思ってください」
勇「それ、大丈夫じゃありませんよ! 窃盗は言うまでもなく、マリファナも慎ましいかどうかは問題じゃないんですよ。吸ってることが問題なんですよ」
昴「いいじゃないですか、実害があるわけでもないんだから。窃盗は実害があるので問題ですが。窃盗の人の名前を教えますね、星さんです」
勇「…わかりました。星さんの前では身の回りに気を付けます」
昴「そうしてください」
勇「では『共有部分で全裸になってはならない。最低でも下半身と上半身に肌着を着用すること』もすっぽんぽんになる人がいるからなんですか?」
昴「そういうことです」
勇「…その方はそういうご趣味なんでしょうか?」
昴「違うみたいですよ。暑がりなんだそうです。それと自由を愛している人なので服という束縛から解放されたいんだとか」
勇「やっぱりそういうご趣味なんですよね?」
昴「性的興奮を感じているわけではないらしいです。そこは混同されたくないようです」
勇「そうですか…」
昴「一応、裸の人は規則をちゃんと守っていて、今は共有部分では服を着ています。でも自室では裸で過ごされているようなので、部屋を訪問するときはそのつもりで。伴さんです」
勇「伴さんですね、覚えました」
昴「ところで他にお菓子はないんですか?」
勇「えっ、お菓子? 寒天のお菓子ならありますが。味はゆずです」
昴「えー、年寄りが好きなやつですよね。それならいらないです」
勇「若い人のお口には合わないかもしれませんね」
 勇、書類をめくって、
勇「では次にいきますね。『昆虫を飼育するときは脱走させないように注意すること。昆虫が他の住人の部屋に侵入した場合、その住人に一万円の罰金を支払うこと』。ちょっと変わった規則ですよね。やけにピンポイントなのが気になりますが…」
昴「脱走させた人がいますからね」
勇「やっぱりそうなんですね」
昴「呉本さんが虫が好きで、過去にゴキブリを飼っていたことがあるんです。それをうっかり逃がしてしまって」
勇「そして寮にゴキブリさんが拡散してしまったと…」
昴「はい、あれは阿鼻叫喚でしたね。ほとんどの人がゴキブリなんて嫌いですからね。僕は虫が平気な方なので、呉本さんとリカルドくんの三人で捕まえて回りましたよ。僕の責任じゃないのに…」
勇「それは大変でしたね。ゴキブリさんに罪はないのですが… 僕も虫は嫌いじゃないので、また似たようなことが起これば協力しますね」
昴「それは有り難いです。大変なんですよ、虫を探すのって」
 勇、書類をめくって、
勇「ではこれはどういうことでしょう? 『他の住人を粗探しの意味でアラサーと呼んではならない』」
昴「そのままの意味です」
勇「そのまま? 意味がよく掴めないんですが… 普通に『アラサー』と呼ぶのはいいんですか?」
昴「はい、『アラウンド・サーティー』の意味なら問題はありません。僕らにとっては事実ですし。問題は『粗探し』の意味で『アラサー』と言うことなんです」
勇「その意味でアラサーと呼ぶことなんてそうそうなさそうですが… どうして問題なんでしょう?」
昴「それ、リカルドくんに付けられた渾名なんですよ。リカルドくんはここに合流するのが遅い方だったんですが、知っての通り性格に神経質なところがあって、最初は一部の人から嫌われていたんです。他人のやることについ口を出してしまうんですよね、リカルドくん。そのせいで陰で渾名を付けられてしまっていたんです。それが『アラサー』ということなんです」
勇「なるほど。ぱっと聞けば『アラウンド・サーティー』のことを言っているようだけど、実際は『粗探し』の意味で言っていたと。どこにでもあるんですね、陰湿な渾名って」
昴「そうですね、嫌な話です。やがてリカルドくんは渾名の意味に気づいてしまい、星さんと喧嘩になったんです」
勇「元凶は星さんだったんですね…」
昴「はい、相手は喧嘩に慣れているであろう人物、リカルドくんの方が不利なように見えましたが、リカルドくんは格闘技の経験があったので星さんを返り討ちにしてしまったんです。しかしヤンキーは怖いですね、すぐに仲間が集まって星さんに加勢したんです」
勇「それは本当に怖い…」
昴「そのままではリカルドくんが危ないし、そもそも陰湿な渾名で呼んでいたのは向こうなんですから、僕はリカルドくんに加勢することにしました。僕、体格には自信あるので。それから桐生さんと美馬さんもこっちに加わって乱闘状態になってしまって。結果、『アラサー』という渾名は禁じられることになりました」
勇「そんなことが… 最近、小学校では渾名を禁止するところが増えているみたいですが、やっぱり渾名って良くないんですね」
昴「これは特殊なケースでしょうけど」
 勇、書類をめくって、
勇「ではこちらも何かトラブルがあったということなんですかね。『ハロウィンに本気を出してはならない。仕掛けやコスプレは明らかにフィクションとわかるようにすること』」
 昴、ニヤニヤした顔で勇の話を聞いてから、
昴「それは僕のせいです」
勇「えっ、丹羽さんのせいなんですか!?」
昴「(嬉しそうに)はい、僕は人を楽しませるのが好きなもので。ハロウィンなんてまさに僕のためにあるようなイベント。だから張り切ったんです。ちょっと張り切りすぎましたけどね」
勇「…何をやったんですか?」
昴「ネットオークションでマネキンを購入してペイントを施しました。それを庭に置いたり、廊下にぶら下げたりしました。しかし不幸なことに第一発見者が美馬さんだったんですね。美馬さんは少し見えづらさがあって、てっきり本物の遺体と見間違えてしまったそうなんです」
勇「丹羽さん、どれだけ本気を出したんですか…」
昴「(にやりと笑い)準備期間に一年はかけましたからね。でもそれから警察を呼ばれてしまって。さらに美馬さんが『死体発見』と触れ回ったことで、もう寮の中はパニックですよ。僕もさっさと種明かしすればよかったんですけど、みんなが信じ込んでいる様子がおもしろくて。警察が来るまで黙っておきました。もちろん後で警察官からみっちり搾られましたけどね。残念だな、ハロウィンが制限されちゃって」
勇「それは制限されますよ! いたずらが悪質すぎます。それぞれの規則にはそれぞれの理由があるということがよくわかりました」
昴「そうです、無駄な規則は一つもありません。ということで規則はしっかり守ってください」
勇「僕が破ることはなさそうですけどね。僕、ここでやっていけるのか不安になってきました…」
昴「なぜですか? 規則は多く見えますが、けっこう自由で楽しいですよ」
勇「自由すぎるんですよ! ほとんど無法地帯じゃないですか」
昴「そんなことありません。基本的には平和です。相良さんも住んでいればきっと気に入ると思いますよ」
勇「そうですかね… そんな気がしません」
昴「これだけ無茶苦茶なことが起こるということは、それだけ自由を許容しているということです」
勇「確かにそうなんでしょうけど…」
昴「とりあえずしばらく住んでみてください。ここは誰でも馴染める場所です」
勇「そうですね… 頑張ってみます」

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