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ケーキ

2026/06/25 01:09
○寮 真澄の部屋 リビング-中 夜

 真澄、くつろいだ姿勢でソファーに座り、スマホでショート動画を見ている。真澄が画面をスワイプすると、メイクやダンスの動画が次々と再生される。真澄はルームウェアを着ている。
 インターホンが鳴る。
 真澄、スマホから顔を上げる。

○同 玄関-中 夜

 真澄、玄関のドアを開けて、
真澄「(不機嫌そうに)何の用?」
 ドアの向こうには京介が立っている。京介はケーキの箱を持っている。
京介「真澄、昨日は悪かった。きちんと話して謝ろうと思って…」
真澄「話すことないよ」
京介「一日、ずっと昨日のことを考えていたんだ」
真澄「どうせ明日になったらすっきり忘れるんでしょ? いつも同じことの繰り返し、その場では反省して見せるけど、本当にどこが悪かったのかは何もわかってないよね」
京介「今度こそ変わる。二度と真澄を失望させない」
真澄「それも聞き飽きたんだけど」
京介「とにかく中に入れてくれないか? ちゃんと向き合って話したいんだ」
 京介、ケーキの箱を軽く持ち上げ、
京介「ほら、ケーキも買ってきたんだ」
 真澄、大きくため息をつく。
真澄「そういうところがムカつくんだって」
京介「ケーキの気分ではなかったのか? そうだな、何を食べたいのか聞くべきだったな」
真澄「やっぱり何もわかってないじゃん」
京介「ではどういうことだ?」
真澄「…いいよ、上がって。ここで話してても仕方ないし」
京介「…ありがとう」

○同 リビング-中 夜

 真澄、京介、リビングに入ってくる。
京介「真澄、本当にすまなかった」
 真澄、部屋の真ん中で立ち止まり、京介と向き合うように立つ。京介も続いて立ち止まる。
真澄「どこが悪かったと思う?」
京介「それは…」
 少し間を置いて、
京介「その場では口だけで反省して、それからも同じことを繰り返しているからだ」
真澄「それ、さっき私が言ったことだよね?」
京介「(慌てたように)そういうつもりじゃ… たまたま言葉が被っただけだ」
真澄「…話にならない。やっぱり帰って」
京介「真澄…」
 京介、ケーキの箱から手を離し、両手を広げながら、真澄に歩み寄る。箱は床の上に落下。
 京介、真澄を抱き締める。真澄は困惑した表情で固まる。
京介「正直、俺は他人の気持ちに鈍感で、デリカシーに欠けているところがある。それは自分でもわかっている。できるだけ改めようとは思っているが、今日明日で変わることは難しいかもしれない」
真澄「うん…」
京介「それでも俺はこれからも真澄と一緒にいたい。だから俺のことを見守っていてほしいんだ。俺も変わるための努力はするから」
真澄「そう、わかった… ところでキョン、ケーキ…」
 京介、抱擁を解いて、
京介「そうだな、冷蔵庫に入れておかないとな。…そういえばどこに置いた?」
 京介、周囲をキョロキョロと見回し、ケーキの箱が落ちていることに気付く。
 少しの静寂。
京介「…すまん」
真澄「いいよ」
 真澄、ケーキの箱の方に向かう。箱の近くでしゃがみ、箱を開けて中身を確認する。中にはケーキとゼリーが入っている。ケーキは少し崩れているが、ほとんど形を保っている。京介も箱の近くにしゃがむ。
京介「大丈夫そうか?」
真澄「これくらい大丈夫。せっかく買ってくれたし食べよっか」

× × ×

 真澄、京介、隣り合ってソファーに座っている。真澄はケーキを食べている。京介の前のテーブルにはゼリーが置かれている。
京介「真澄、ごめん」
真澄「いいよ、食べてしまえばおいしいことには変わりないし。キョンは食べないの?」
京介「ああ…」
 京介、ゼリーの容器を手に取り、ゼリーを食べ始める。
京介「本当に気にしてないか?」
真澄「全く。もう怒る気にもならないよ」
京介「呆れるよな…」
真澄「呆れてるというか…怒ってもしょうがないかなって思った。抜けてるところも含めてのキョンだし」
京介「だが自分から謝りに来ておいて、こんなヘマをしてしまうなんて…」
真澄「(笑って)イラッとはするよね。でもそういうところをわかって付き合ったわけだから。私にとってはキョンがキョンであることに意味があるの」
京介「(微笑んで)俺も同じだ。真澄は短気で狭量だが、だからこそ真澄は真澄なんだ」
真澄「(笑顔を作って)そうだね、確かに私は狭量かもしれないけど、今は心が穏やかだから特別に許してあげるね」
京介「(はっとしたように)すまない! また俺はデリカシーに欠けたことを…」
真澄「キョンってホントにアホだよね…」
 少し間を置き、真澄が前方を向いて、
真澄「でもこれからも許しちゃうだろうな。キョンがケーキを落としたとき、ちょっと『かわいい』って思っちゃったもん。この先もずっとこういう日々が続いていく気がする」
 少しの静寂。
 真澄、京介の方を見る。京介はゼリーを食べるのに集中していて、真澄の方を見ていない。
 真澄、京介の前のテーブルを叩いて、
真澄「キョン」
 京介、はっとしたように真澄の方を向き、
京介「何だ? 何か言ったか?」
真澄「死ね」
京介「なぜいきなり暴言を吐かれたんだ、俺!?」
 真澄、ため息をつき、
真澄「私、何でキョンと付き合ってるんだろ?」
京介「俺に聞かれても… 愛があるからだろうか?」
真澄「愛ね… そうとしか説明できないよね。…今日はもう帰ってくれない?」
京介「どうした? …もしかして愛が尽きてしまったのか!?」
真澄「キョンのことは好きだよ、愛してる。だけど今日は私の虫の居所が悪いみたい」
京介「そうか… だがゼリーを食べ終わってからでも構わないか?」
真澄「残りは冷蔵庫に入れとくから、明日の夜に続きを食べに来て。じゃ、おやすみ。テーブルはそのままでいいから」
京介「わかった…」
 京介、ソファーから立ち上がる。真澄も続いて立ち上がる。
 真澄、京介、リビングの出口の方へ向かう。

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