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宝毛

2026/06/06 01:06
※勇は祖父母に育てられているため、同世代より習慣が古いことがあります。
※勇と歩は恋人です。
※歩(リカルド)はブラジルで生まれ育っています。

○本部 食堂-中 昼

 成美、瑞希、テーブルを挟み、向かい合って椅子に座っている。テーブルの上にはトレーが置いてあり、トレーには食べ終わって空になった皿が乗っている。
 瑞希、左腕の宝毛を指で軽く引っ張って、
瑞希「あっ、長い毛がある」
成美「毛?」
 瑞希、成美の方に腕を差し出し、
瑞希「ほら」
 成美、トレーをわきにどけて、上半身を乗り出し、
成美「ホントだ、宝毛じゃん」
瑞希「宝毛って言うん、これ?」
 成美、姿勢を戻し、
成美「知らなかったのか。何か縁起が良いらしいぜ」
瑞希「ふーん、知らんかった。普通は知ってるもんなん?」
成美「普通は知ってるとは思うけど、学校で教わるわけでもねぇし、大人から教わらなかったら知らないかもな」
瑞希「そういうこと教えてくれる大人、俺の周りにはおらんかったからな」
成美「俺もたまたまクソジジイから聞いただけだよ」
 勇、トレーを持って二人の方に歩いてくる。
 勇、二人のテーブルの近くで立ち止まり、
勇「お疲れさまです。ご一緒してもいいですか?」
瑞希「お疲れさん。どうぞ」
成美「お疲れ」
 勇、トレーをテーブルに置き、瑞希の左の席に座る。
勇「もしかしてお仕事に戻られるところですか?」
成美「全然。ただダラダラしてたところ」
勇「そうでしたか」
 勇、顔の前で両手を合わせて、
勇「いただきます」
 勇、食べ始める。
成美「そういえば瑞希に宝毛が生えたんだって」
瑞希「これ」
 瑞希、左腕を上げる。
勇「あら、良かったじゃないですか。きっと良いことありますよ」
成美「で、宝毛はどうすんの?」
瑞希「ぴろぴろして気になるし抜いてまおうかな」
 勇、食べる手を止め、
勇「抜く? 宝毛を? ダメですよ! 運が逃げちゃいますよ!」
瑞希「でも毛は毛やし」
 勇、箸をトレーに置き、
勇「いいですか、寺田さん、人生は縁と縁のより合わせなんですよ。その細い毛が幸福に繋がる糸かもしれないじゃないですか」
瑞希「(困ったように笑って)そやな」
勇「大切にしてあげてください。ほら、宝毛を見せて」
 瑞希、左腕を上げる。
 勇、瑞希の宝毛を指で軽く引っ張りながら、
勇「このお方ですね」
 勇、宝毛に優しい眼差しを向け、
勇「宝毛さん、寺田さんにたくさん幸せを運んでくるんですよ」
 勇、瑞希の顔を見て、
勇「寺田さん、抜いちゃダメですからね。会うたびにちゃんと生えてるか確認しますよ」
瑞希「わかった…」
 瑞希、腕を下ろす。
瑞希「幸せって何があるんやろな」
成美「100円を拾うとか」
勇「ガラポンで白じゃない色が出るとか」
瑞希「出かけようとしたら雨が止むとか」
成美「それはすげぇ幸運だぞ」
勇「(微笑んで)そうなったら嬉しいですね。何があるか楽しみですね」

○本部 廊下 午前 日替わり

 瑞希、廊下を歩いている。
 勇、瑞希の対向から歩いてくる。
 距離が近づいたところで、
勇「お疲れさまです」
瑞希「お疲れさん」
 勇、立ち止まり、
勇「待って」
 瑞希、続いて立ち止まり、
瑞希「何や?」
勇「宝毛をチェックしてもいいですか?」
瑞希「宝毛? (思い出したように)ああ、あれやな、ええで」
 瑞希、左腕を勇の方に差し出す。宝毛はまだ生えている。
勇「よかった、まだありますね。あれから良いことありました?」
 瑞希、少し考え込んでから、
瑞希「ちょっと思いつかへんな。とりあえず悪いことが起こってへんだけええかな」
勇「(笑って)それだけでも十分に幸運ですよね。では用事があるので、また」
瑞希「ほな」
 瑞希、勇、それぞれ反対方向に歩き出す。

○寮 パーティールーム 夕方 日替わり

 勇、歩、キッチンで料理をしている。キッチンはアイランドタイプ。
 瑞希、パーティールームに入ってくる。キッチンの方に向かいながら、
瑞希「お疲れさん。何か手伝うことあるけ?」
歩「そうだな…」
 少し間を置いて、
勇「とりあえずテーブルを拭いてもらいましょうか」
瑞希「わかった」
 瑞希、キャビネットの方に向かう。
勇「その前にちょっと」
 瑞希、立ち止まる。
瑞希「何や?」
勇「宝毛をチェックします」
瑞希「宝毛な。久しぶりやな。忘れてたわ」
歩「ん?」
 勇、手を洗う。
 瑞希、自身の目の高さまで左腕を上げる。
瑞希「あれ?」
勇「どうしました?」
 勇、瑞希の近くに向かい、瑞希の左腕を観察する。
勇「ない、宝毛がない!」
瑞希「俺、抜いてへんで。いつの間にか抜けたんやな」
 歩、料理する手を止める。
歩「何かあったの?」
勇「寺田さんの宝毛がないんだよ!」
歩「タカラ…何?」
勇「宝毛だよ。リカルドは知らなかったんだね。一本だけひょろっと生える白い毛のことで、日本では幸運のしるしと言われているんだ」
歩「へぇ、そんな言い伝えがあるんだ。日本はまだ知らないことだらけだな。その毛がなくなっちゃったの?」
勇「うん。(悲しそうに)寺田さんの幸せが逃げちゃった… 宝毛でも生えないと幸せが来ないのに…」
瑞希「俺、めっちゃ不幸な人やと思われてへん? あまり否定もできへんけど…」
歩「でも瑞希の幸せは宝毛だけじゃないから。今夜は思いきりはしゃいで、瑞希もみんなもハッピーにしようよ」
瑞希「ごめんやで、気ぃ遣わせて」
勇「謝らないでください。宝毛を守りきれなかった僕のせいです」
 歩、勇の横に立ち、勇の背中を軽く叩いて、
歩「(苦笑して)勇、そんなに落ち込まないで。瑞希まで悲しくなっちゃうよ」
勇「そうですね…」
 歩、勇の顔を見る。勇の目の下に白く長い毛が生えている。
歩「勇、それ、宝毛じゃない? 目の下に生えてるやつ」
勇「えっ?」
 勇、目の下を触る。
歩「そっちじゃない、逆。もう少し上。そう、それ」
 勇、宝毛を指で軽く引っ張る。
勇「(嬉しそうに微笑んで)ホントだ」
 瑞希、勇の顔を見ながら、
瑞希「良かったやん」
歩「宝毛って伸ばすものなの?」
勇「そのままにしておくものだね」
瑞希「(笑って)ほな、次は俺が相良さんの幸せを見守っちゃるわ。会うたびに確認させてもらうで」
歩「俺もやるよ」
 勇、嬉しそうににこにこしている。
歩「嬉しいの?」
勇「…僕、もう幸せを見つけちゃったかもしれない」
歩「それって?」
勇「こうやって幸せを祈ってもらえることだよ」
歩「(微笑んで)そうだよな。それが幸せってことだよな」
 瑞希、自身の左腕を見て、
瑞希「俺にもまた宝毛_生えてけぇへんかな」
勇「ではこれからは寺田さんに宝毛が生えてくるか見守るということで」
歩「いいね」

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