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階段

2026/06/04 17:27
※勇はかつて消防職員として働いていました。
※尚人は弱視です。

○寮 階段 夕方

 尚人、左手で手すりを持ち、右手で白杖を持って、階段を上っている。
 上の方から勇の声。
勇の声「(声を張り上げて)宇野さん、相良が下りますよ」
 尚人、踊り場に出たところで立ち止まる。
 勇、階段を下りてくる。勇はアウトドアブランドのレインウェアを着て、ウォーターボトルを手に持っている。
 勇、踊り場で立ち止まる。
勇「こんにちは」
尚人「こんにちは」
勇「お仕事が終わったところですか?」
尚人「そやで。相良さんは出かけるところ?」
勇「いいえ、階段の上り下りをしているところです」
尚人「ワークアウトか何か?」
勇「というより暑熱順化のようなものですね。来たる夏に備えて、暑さに体を慣らしているんです」
尚人「なるほど」
勇「大阪の夏は本当に暑いですからね。こっちで初めて夏を経験したときは地獄でしたよ。すっかりバテちゃいました。これは何か対策しないとダメだなって思いましたね」
尚人「そうなんや。ところでえらい厚着してるように見えるけど、それも暑さに慣らすため?」
勇「はい、そういうことです」
尚人「今日、すでに暑いけど大丈夫なん?」
勇「(笑って)これくらい大したことありませんよ。消防のトレーニングはもっとキツかったので。防火衣を着てやってましたから、暑さだってこれの比じゃありませんよ。そしてとにかく重いんです。空気呼吸器も背負うと全部で20kgくらいになりますからね。それで階段を駆け上がったりするんですよ」
尚人「へぇ」

× × ×

 成美、階段を上っている。耳にはワイヤレスイヤホン。
 上の方から勇が話す声。
勇の声「それで後輩に言ったんですよ。焼死体は怖くないよって。お肉は焼いたら焦げるのは当たり前、焦げない方が怖い。それは自然なことだよって。後輩、それからすぐに消防を辞めちゃいましたね。慣れなかったのかな? あっ、星さんじゃないですか。聞こえないのかな? 星さん!」
 成美、踊り場の手前でやっと勇と尚人に気づき、イヤホンを外す。
成美「お疲れ」
勇「お疲れさまです。音楽を聴いていたんですね。今日はお仕事ですか?」
成美「そうだよ」
勇「そうでしたか。僕は宇野さんと話していたところです」
尚人「(笑って)ちゃうやん、猛暑に備えてたんやろ?」
勇「(はっとしたように)そう、そうですよ! 暑熱順化ですよ! 宇野さんと長話してつい忘れちゃってました」
 尚人、片手を軽く挙げて、
尚人「ほな、俺はそろそろ」
勇「あら、宇野さん、もう行っちゃうんですか?」
尚人「今日は作り置きを作っておきたいから」
勇「そうだったんですね。それは引き止めてすみませんでした」
成美「おい、尚人!」
尚人「またな」
 尚人、階段を上る。
勇「そういえば星さん、暑熱順化って知ってますか?」
成美「何かテレビで見たな。たくさん汗をかいておいて、暑さに体を慣らしましょうってやつだろ? だからそんな厚着してんのか」
勇「はい、でもこれくらい厚着の内には入りませんよ。消防では防火衣を着て訓練しますからね」
成美「(棒読みで)そうなんだ」

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