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断片-3

2026/01/14 22:46
2026/1/14

※登場人物がデッドネームで呼ばれる描写があります。
※成美はノンバイナリーです。

夜。成美の部屋のリビングにて。部屋は服やゴミで散乱している。成美は服の上に座り、Switch 2でゲームをしている。成美の傍らにはスマホが置いてある。
成美のスマホが鳴る。
成美、ゲームを止めて、電話に出る。
成美「もしもし、何?」
祖父「竜成(りゅうせい)か。元気にしてたか」
成美「元気だけど… じいちゃんから電話してくるなんて珍しいな。何かあった?」
祖父「名前のことで話したいことがあってな」
成美「名前? 『成美』に改名したって、前にも話したと思うけど」
祖父「やっぱり成美という名前は良くねぇと思うんだ」
成美「(表情が曇る)何でよ?」
祖父「名字が星だから、『星に成る』で縁起が悪い」
成美「縁起? そんなもん気にしてねぇよ」
祖父「少しは気にした方がいい。人生は小さな縁のより合わせだ。迷信だからとバカにしたら、それが人生に…」
 話を遮って、
成美「うるせぇな。いつ何があるかわからなかった時代じゃねぇんだよ、今は。俺は今の名前でハッピーなの」
祖父「そうか… 違う名前はないのか? 竜子(たつこ)とか」
成美「ババアすぎるだろ」
祖父「最近は古い名前が流行ってるそうじゃないか」
成美「だからって竜子はないだろ、竜子は。程度というものがあるだろ」
祖父「『子』が付くからダメなのか。それなら簡潔に竜(たつ)はどうだ?」
成美「『子』が問題なんじゃねぇ、『竜』が問題なんだよ」
祖父「わがままな奴だな」
成美「俺のことは俺で決めるから。もう切るぞ」
祖父「待ってくれ。来月までに新しい名前を考えておく」
成美「考えとけば? 採用するかはわかんねぇけど」
祖父「そんなに『成美』が気に入ってるのか?」
成美「そうだって言ってんだろ。あれだよ…一番星に成るってことにすれば、じいちゃんも納得だろ?」
祖父「確かにそれもそうか…」
成美「そういうことだから。この話はおしまいな」
祖父「わかった。竜成は昔から頑固だったからな。言って聞くような奴じゃねぇか」
成美「わかってんじゃん」
祖父「そろそろ俺は寝るぞ。元気でやれよ」
成美「こっちは若いから大丈夫。じいちゃんこそうっかり死ぬなよ」
祖父「お前に言われなくもまだまだ生きるつもりだ。じゃあな」
成美「じゃあ」
電話が切れる。
成美、スマホを置き、ゲームを再開する。

2025/12/22

昼。公園にて。
公園には広い池があり、池には水鳥がいる。
勇、双眼鏡を覗いて、水鳥を観察している。
透、勇の後ろを通り過ぎる。勇は気づいていない。
勇、双眼鏡を下ろし、池に沿って歩き始める。
前方に透が歩いているのを見つけ、
勇「(声を張り上げ)呉本さん!」
透、止まらずに歩き続ける。
勇、小走りで透を追う。
勇、透に追いつき、横に並んで歩きながら、
勇「こんにちは。奇遇ですね」
透「…どうも」
透が早歩きになる。勇も透と同じペースで歩く。
勇「呉本さんはどうしてここへ?」
透「どうでもいいだろ」
勇「もしかしてデートですか? 茂呂さんと待ち合わせてるんですね?」
透「違うよ。ただの散歩だよ」
勇「だったら隠さなくてもいいじゃないですか」
透「お前がうっとうしいんだよ」
勇「そんな、ひどい!」
透、歩くペースを落として、
透「たまたま見かけたからっていちいち話しかけてくんな」
勇「先輩に会ったら挨拶する、大人としての当然のマナーでしょうが」
透「俺には挨拶しなくていいんだよ。ほっといてくれ。俺は一人が好きなんだよ」
勇「でも茂呂さんから聞きましたよ。呉本さんはつれなく見えても、本心は違うって」
透「さっきうっとうしいと言ったのは本心だ。とにかくついて来んな」
勇「僕はついて行きたいんです」
透「野鳥観察に来たんじゃないのか」
勇「よくわかりましたね」
透「だったら鳥と喋っとけ。俺に構わなくていいから」
勇「もちろん鳥とお喋りするのは楽しいですが、人と話すのも好きなんです。そうだ、良いことを思いついた。僕と一緒に野鳥観察しませんか? それなら幸せが倍になります」
透「俺の幸せは半減だよ」
勇「鳥には興味ないんですか?」
透「まだわからないのか。お前に興味がないんだよ」
勇「そんなこと言って。呉本さん、楽しそうですよ。僕、人を幸せにする才能がありますから」
透、大きくため息をつく。
透「わかったよ。しよう、野鳥観察」
勇「その気になってくれたんですね?」
透「どうせ諦めてくれないんだろ」
勇「強制したつもりはないんですけどね。でも一緒に来てくれることになったからには、絶対に損はさせませんからね。楽しかったと言わせてみせますよ」
透「無理だろうけどな」

2025/12/20

※尚人は弱視です。
※知久はDIYが趣味で、尚人はガーデニングが趣味です。
※尚人はカナダで生まれ育っています。昴はブラジルと日本にルーツがあります。

昼。寮の庭にて。庭にはベンチが置いてある。
知久はしゃがんで、ベンチの脚のぐらつきを確認している。知久の足元には工具箱と電動ドライバー。
尚人は知久の横に立ち、様子を見ている。
尚人「どう? 直りそう?」
知久「これくらいやったら簡単に直るよ」
尚人「よかった」
昴、知久の背後に忍び足で近づいている。知久は昴に気づいていない。
昴、知久の後ろにしゃがむ。
昴、右手で電動ドライバーを拾い、スイッチを入れる。左手の人差し指で知久の背中をつつく。
知久、慌てて跳び上がり、
知久「うわっ!」
尚人「どないしたん!?」
昴、ニヤニヤと笑っている。
知久、手で背中を触ってから、掌を確認する。
尚人「大丈夫?」
知久「大丈夫。何ともあらへん」
知久、後ろを振り返り、
知久「(声を荒げて)おい、やっぱりお前か」
昴、立ち上がり、
昴「こんにちは」
知久「何が『こんにちは』やねん。ふざけんなや。しばくぞ」
昴「怖い、怖い。ちょっとしたイタズラにそこまで怒らなくても」
知久「こっちはホンマに穴が空いたと思ったんやからな」
昴「(さらにニヤニヤして)本気にしてくれたんですか? それは嬉しいな」
知久、庭の外の方を指して、
知久「Get the f*** out of here! 」
昴「Alright, alright. I’m out of here. 宇野さん、後は任せましたよ。桐生さんを鎮めておいてください」
尚人「Why me? It’s your fault. 」
知久が昴を睨んでいる。
昴「僕が何をやっても、桐生さんを怒らせるだけになりそうなんで」
知久「ええからさっさと行け!」
昴「わかりましたよ。Falou! 」
昴、庭から去る。

2025/12/19

※知久はミントが嫌いです。

夜。ビジネスホテルの部屋にて。ベットはツイン。知久、昴、それぞれにベッドに座り、スマホを操作している。
知久、スマホの操作をやめ、スマホをベッドに置く。
知久「そろそろ寝ようかな」
昴、スマホから顔を上げて、
昴「もう?」
知久「もう11時やけど。明日は朝からやることあんねんで」
昴「そうだった… 支部がいきなり仕事を詰め込むから、こっちは早く起きないといけなくなったんだった」

× × ×

洗面台の前にて。知久、昴、歯磨きの用意をしている。
知久、歯ブラシに歯磨き粉を搾り出す。歯磨き粉はアメニティーのものではなく、知久が自分で持ち込んだジェルタイプのもの。
昴「その歯磨き粉、僕にもください」
知久「アメニティーに歯磨き粉なかった?」
昴「あれ、すぐシャバシャバになるから嫌いなんです」
知久「そういうもんなん?」
昴「桐生さんもそれが嫌なんじゃないんですか?」
知久「俺、歯磨き粉にはこだわってんねん。昴もこだわりがあるんやったら、自分で持って来ぃや」
昴「(ニヤニヤしながら)桐生さんならくれると信じているので」
知久「とことん甘えた奴やな… ええよ」
昴、知久の方にアメニティーの歯ブラシを差し出す。
知久、昴の歯ブラシに歯磨き粉を乗せる。
知久、昴、歯磨きを始める。
昴「何ですか、これ。甘すぎる」
知久「甘くてスースーせぇへんしおいしいやろ」
昴「爽快感が全くないじゃないですか。何のために歯磨きしてるんですか」
知久「何のためって…歯を磨くためやけど。昴は歯磨き粉を食べるために歯磨きしてるん?」
昴「もちろん口の中を清潔にするためです。でもすっきりしたという感覚も欲しいんです。こんな歯磨き粉では磨いた気になりません」
知久「人におねだりしといてわがままやな…」
昴「わがままでも結構です。僕は自分の人生を快適にしたいんです。嫌なことは嫌だと言います」
知久「その性格で何で友達おんねん… どれだけわがままを言うても、違う歯磨き粉は出てけぇへんで」
昴「…今日は人生が快適にならなかった」
知久「お互いの快適が噛み合わんこともある。それだけのことや」
知久、昴、黙って歯磨きを続ける。

2025/12/14

※男×男のキスの描写あり。NSFWかも。

歩の部屋にて。
歩、勇、ソファーに隣り合って座っている。体が触れるくらいの距離。
勇「にやけちゃうな、リカルドの顔を間近で見てると」
歩「いつも見てるだろ」
勇「どれだけ見ても飽きないよ」
歩「(笑って)俺も同じだった。勇の顔はどれだけ見ても飽きない」
歩、勇、見つめ合う。
歩「もっと近くで見たい」
歩、勇、顔を寄せてキス。最初は啄むように、徐々に深くなる。
舌を絡ませたところで、歩が勇から離れる。
勇「(きょとんとした顔で)今日はここまでにする?」
歩「ごめん、勇、変な味するよ… キスする前から変わったにおいしてたし。直前に何か食べた?」
勇「何かって仁丹だよ。味とにおいでわかるでしょ」
歩「ジンタン? 初めて聞いたよ。何、それ?」
勇「知らない? 銀色の小さな粒で、口臭を消したり、気分をすっきりさせる効果があるんだ」
歩「知らないな。ブラジルにはないんじゃないかな、それに近いもの」
勇「日本では当たり前の存在なんだけどな…」
歩「本当に? 日本に来てから今まで、そのにおいに遭遇したことないよ」
勇「それこそ本当なのか疑わしいな。絶対にどこかですれ違ったことくらいはあるよ。日本で生まれ育った人なら、必ず家には置いてあるものだから」
歩「勇の常識は世間の非常識だからな…」
勇「みんなに聞いてみてもいいよ。僕の言ってることが正しいから」
歩「そうするよ。ところで勇はどうして仁丹なんか食べたの?」
勇「(気まずそうに笑って)タバコを吸っちゃった。リカルド、怒るかなって」
歩「歯を磨きなよ」
勇「歯磨きした後に吸っちゃったんだもん。また磨き直すのが面倒になっちゃって」
歩「ガムとかフリスクとかは?」
勇「僕の部屋にはないね」
歩「それなら仕方ないか。気を遣ってくれたんだな、ありがとう。だけど次からは仁丹はやめてほしいかな」
勇「わかったよ。そんなに嫌だった?」
歩「キスのムードが盛り下がる味ではあるかな。おいしいものではないよな」
勇「リカルドは嫌いなのか… 僕は好きだけどな、仁丹」

2025/10/15

 夜。和真の部屋のリビングにて。
 リビングにはテーブルが置かれている。テーブルの上には酒や菓子。
 成美、和真、テーブルを挟んで、向かい合って床に座っている。
成美「そろそろハロウィンパーティーだよな。何のコスプレするか決めてねぇわ」
和真「そっか。もうそんな時期だよね。俺も何も決めてなかった」
成美「正直、ネタが尽きてるんだよな。今年って何かホラーアイコンいたっけ?」
和真「8番出口のおじさん?」
成美「あれのコスプレって難しくねぇか? 髭とか頭髪とか似せないとそう見えねぇだろ」
和真「確かに。今年もドンキで適当に決めるか」
成美「結局はそうなるよな」
 会話が途切れて、少し間が空く。
成美「そうだ、無難に殺人鬼と死体とかどうよ? 血糊なら用意できるし」
和真「どっちが殺人鬼? 俺?」
成美「当たり前だろ。どう考えても和真の方が適役なんだから」
和真「うーん…(少し考えてから)やっぱり却下で。みんなが本気にしたら困る。説得力がありすぎる」
成美「そうだよな。とうとう殺っちまったか、って思われかねないよな」
和真「俺のこと何だと思ってるの? 共感性が薄いことは自覚してるけど」
成美「…仕方ねぇな。俺が犯人をやるよ」
和真「それはそれでリアルなんだよな… やっぱり伴和真は陰で恨まれるようなことしてたのか、って」
成美「和真、もっと自分に自信を持て。最初にイジったのは俺だけどさ…」
和真「(少し考えてから)ねぇ、俺がいかにも取り乱したような演技をしたらいいんじゃない?」
成美「犯人役で? 確かに和真なら平然としてないと違和感あるもんな」
和真「うん、そうしよう。それならみんなも信じ込まずに済みそう」
成美「…本当にそれでいいのか? やっぱりドンキの衣装にしねぇ?」
和真「でもいつもと似たり寄ったりになっちゃうし…」
成美「俺らはそれくらい適当でいいんだよ」

2025/10/5

※勇はみんなより後輩です。これは勇が加入したばかりの頃の話です。

 昼。昴の部屋のリビングにて。
 部屋にはテーブルが置いてある。テーブルを挟んでソファーが二つ。昴と歩は隣りに座り、その向かいに勇が座っている。
 テーブルの上にはコーヒーと菓子が置かれている。
昴「今から丹羽昴による人間関係相関図講座を始めます。新人で何もわかっていない相良さんのために、僕が一から教えて差し上げましょう」
勇「よろしくお願いします。助かります」
歩「マルセロ、本当に大丈夫?」
昴「任せてください。まずリーダーとサブリーダーから始めましょうかね。茂呂さんと桐生さんは激しく対立していて、メンバーも茂呂派と桐生派で睨み合っています」
勇「そうなんですか… それはややこしいですね」
歩「全く違うよ! 何てこと言うんだよ!」
昴「茂呂さんに就くか、桐生さんに就くか、慎重に見極めることですね。それ次第で今後の人間関係も変わりますので」
勇「わかりました。それは大事なことですね」
歩「安心して。栄太とトミーは協力し合ってるし、みんなだってうまくやってるから」
勇「どっちが正しいんですか?」
歩「俺だよ」
昴「僕です。リカルドくんは優しいので、相良さんを怖がらせないようにしてくれているんですね。僕はいつでも正直です」
歩「マルセロはおもしろい奴だけど、いつも適当なことを言うんだ」
勇「はあ…」
昴「続けましょう。そんな対立に巻き込まれてしまったのが、悲劇の恋人の立花さんと美馬さんですね。立花さんは茂呂派、美馬さんは桐生派、でも惹かれ合ってしまったんですね。しかし茂呂さんと桐生さんが二人を認めるはずがなかった。二人はお互いを好き合っていながら、今は会話を交わすことさえ許されていません。いつか結ばれるといいですね」
勇「そうですね、僕もそう願います。心の中でひっそりと応援しますね」
歩「何で信じるんだよ。真澄とキョン、今日もデートに行ってるよ」
勇「よかった、では悲劇は実在しないんですね?」
歩「しないよ」
昴「リカルドくんはユーモアがわからない人ですね… では次は呉本さんについて。呉本さんは全員から嫌われています。性格が悪いからです。ちょっとしたことですぐ怒るんです。この前だってたまたま約束をすっぽかしただけなのに。人間なんだから忘れることくらいあるでしょ。呉本さんはいつでも完璧でいられるんですか。心が狭すぎます」
歩「マルセロ…」
勇「呉本さんがどういう人なのかはまだわかりませんが、丹羽さんが不誠実だということはよくわかりました」
昴「僕のことはどうだっていいんです。呉本さんの話をしてるんです」
歩「マルセロ、そういうところだよ。少しは反省しなよ」
昴「今は説教の時間じゃないんです。講座に戻りましょう。次はヤンキーですね。星さん、伴さん、宇野さん、寺田さんはヤンキーです。最近も家電量販店に侵入して窃盗したそうです。彼らの掃除機、冷蔵庫、洗濯機、テレビが全て新品に替わっていましたね。恐ろしいことです」
勇「えっ、それはヤンキーというより犯罪者じゃないですか!?」
歩「マルセロ、さすがに偏見が過ぎるだろ。謝れよ。みんな、確かに見た目は派手だけど、ただ楽しく暮らしてるだけだよ」
勇「丹羽さん、その嘘はさすがにないですよ…」
昴「ちょっとやりすぎたか」
勇「ところで最初の話に戻りますが、誰が茂呂派で誰が桐生派なんですか? 派閥は確認しておきたいと思いまして」
昴「お答えしましょう。茂呂派は立花さん、そしてヤンキーを味方につけていますね。桐生派は残りの美馬さん、リカルドくん、そして僕です。呉本さんは派閥に属していませんね、嫌われているので。ちなみに茂呂さんはSの性癖があって、配下とはBDSMの関係で繋がっていますね」
歩「もうツッコミが間に合わない…」
勇「僕、SMは趣味じゃないな」
昴「では桐生派にいらしてください」
勇「丹羽さんを信用していいのか悩ましいですが… 検討します」
歩「だから派閥がそもそも存在しないんだよ」

2025/8/28

※リカルド(歩)はブラジル人、母語はポルトガル語で、スペイン語が堪能です。
※マルセロ(昴)は日本とブラジルにルーツがあります。ポルトガル語は日常会話ならできますが、第一言語は日本語です。英語が堪能です。

 本部の休憩室にて。
 歩、席に着き、本を読んでいる。
 昴、コーヒーを手にして、歩の向かいの席に着く。
昴「お疲れさまです」
歩「(本から顔を上げ)お疲れ」
 歩、本に栞を挟んで、閉じ、テーブルの上に置く。
昴「リカルドくん、読書ですか?」
歩「うん、Cien Años de Soledad…日本語で『百年の孤独』かな」
昴「ああ…あのよくわからない本だ。ポルトガル語にも日本語にも翻訳されてるのに、わざわざスペイン語で読むんですね」
歩「そうだよ。そっちの方がカッコいいじゃん」
昴「つまり見栄のために読んでいる、と」
歩「そういうことになるな」
昴「そこは認めるんだ。潔いですね。それ、ちゃんと頭に入ってるんですか?」
歩「何となく。『El otoño del patriarca』よりはマシさ」
昴「邦題は『族長の秋』だったかな。同じガルシア=マルケスですよね」
歩「そう」
昴「ただじゃなくても難しい本なんですから、ポルトガル語で読んだ方が理解しやすいんじゃないですか」
歩「見栄なんだから、originalで読まないと意味がないだろ。スペイン語の勉強にもなるし」
昴「ブラジル人ってスペイン語できるものなんですか?」
歩「そんなことないよ。やっぱり勉強しないとわからない。でも語彙も文法も近いから、勉強すれば身に付くのは早いよ」
昴「僕も勉強すればガルシア=マルケスを読めるようになりますかね、スペイン語で」
歩「なるかもな」
昴「スペイン語、大学の第二外国語で選択したんですけど、『gustar』のところで面倒になっちゃったんですよね」
歩「それ、かなり初歩じゃん。確かにちょっと特殊だけどな、gustar」
昴「『好き』くらい素直に言えばいいのに…」
歩「(笑って)文句が文学的だな。言いたいことはわかるよ、ポルトガル語のgostarはストレートに表現できるもんな」
昴「僕、『百年の孤独』は無理そうな気がします。代わりに英語で『Gravity's Rainbow』を読むことにします」
歩「あの難しいことで有名なやつだよね」
昴「はい、見栄のために買ったんですが、ずっと置き物になっていて」
歩「たぶん『Gravity's Rainbow』を読むより、『Cien Años de Soledad』に挑戦する方が簡単だよ。マルセロならスペイン語にもすぐ慣れるよ」

2025/8/15

※知久は酢が嫌いです。
※チューイとは知久が飼っている猫のことです。

 夜。知久の部屋のリビングにて。
 成美、ソファーに座って寛いでいる。テーブルの上にはビールの缶が2本。缶は開いていない。
 知久、キッチンにて冷蔵庫の中を見ている。キッチンはペニンシュラタイプ。
知久「いきなり来んなや。何も出せるもんないで」
成美「アポ、要るの? 同じ寮じゃん」
知久「せめて来る前にLINEするとかあるやろ。(呟くように)ホンマに何もないな。作るんも面倒やしな…」
 知久、立ち上がる。
知久「ツナそのままでもええ?」
成美「いいよ。俺もよくやるから」
 知久、キャビネットを開け、中を探る。
 知久、缶詰と醤油と箸を持って、リビングに戻る。
 知久、それらをテーブルに置き、ソファーに座る。
成美「マヨネーズある?」
知久「俺の部屋にそんなもんあらへん」
成美「マヨネーズすらねぇのかよ。確かに酢だもんな…」
 知久、成美、ビールと缶詰を開ける。
 成美、ビールを少し飲んで、
成美「やっぱり本物のビールはうまいな。サブリーダー、ありがとうございます」
知久「(苦笑して)成美もビールを買えるくらいの収入あるやろ」
成美「俺は貧乏性だからな。つい安い方を選んじまうんだよ。トミーは値札なんて見ねぇだろ?」
知久「正直に言うけど、スーパーとかコンビニとかでは見ぃひんな」
成美「やっぱり金持ちは違うわ」
知久「それだけの責任を負ってるってことや」
 チューイ、知久の方へ歩いてくる。
知久「(チューイの方に目をやり)何や、チューイ。もうご飯はあげへんで。さっき食べたやろ」
 チューイ、知久の周辺をうろうろしながら、しきりに鳴く。
成美「どうしたんだ?」
知久「ツナの匂いにつられてるんやろ」
成美「ちょっとくらいあげたっていいんじゃね?」
知久「チューイには長生きしてほしいからな、人間の食べ物はやらへん」
成美「猫のこと大事にしてんのな」
 成美、ツナを食べる。
成美「これ、何か違わないか?」
知久「違うって?」
成美「味が変な気がするんだけど」
知久「そう? 缶詰やから傷んだりせぇへんと思うけど」
 成美、缶詰を目線まで持ち上げ、ラベルを確認する。缶詰には猫の写真が描かれている。
成美「猫の餌じゃねぇか!」
知久「ホンマに?」
 知久、缶詰を持ち上げて確認する。
知久「(笑って)ホンマや。ごめん」
成美「さっきからチューイが鳴いてるのも、餌を取られて怒ってるんじゃねぇか」
知久「そうかもしれへんな。今度こそツナでええ?」
成美「いや、俺がコンビニまで行って、何か買ってくるよ」
知久「ええの?」
成美「気にすんな、トミーの金だし」
知久「もしかして俺が払うことになってる?」
成美「当たり前。分配だよ、分配」
知久「しゃあないな、構へんよ。ほな、俺はチューイを慰めとくわ」
成美「そうしてやれ」

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