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魚が食べたい

2024/06/09 05:16
◇歩の部屋 リビング 昼

 歩、勇、テーブルを挟み、向かい合わせにソファーに座っている。
 勇、歩に弁当、割り箸を渡す。弁当は店で購入したもの。
勇「これ、食べてください」
歩「ありがとう。でも何で?」
勇「とりあえず開けてみてください」
 歩、弁当を開ける。中は焼き魚の弁当。
歩「おいしそう」
勇「さあ、食べて」
歩「今?」
勇「はい、今です」
歩「勇は何も食べないの?」
勇「食べますよ。リカルドが食べてるところを見ながら、心で食事するんです」
歩「どういうこと?」
勇「リカルドも知っていると思いますが、僕は魚にアレルギーがあって、もう20年は食べていないんですよ。でも本当は魚が好きなんです。だから気持ちだけでも魚を味わいたくて…」
歩「そういうことな。俺はご飯を食べるだけでいいの?」
 勇、頷いて、
勇「はい」
 歩、割り箸を手に取る。
歩「じゃ、いただきます」
勇「どうぞ」
 歩、箸で魚を解して、口に運ぶ。
 歩、咀嚼する。
勇「おいしい?」
歩「うん、おいしいよ。よく脂が乗ってる」
 勇、微笑んで、
勇「実はちょっと奮発したんです。もっと食べて」
 歩、食事を続ける。
 勇、歩を見つめながら、口をもぐもぐさせる。
 歩、箸を止める。
歩「そんなに見られると食べづらいよ」
勇「僕のことは気にしないでください」
歩「いや、気になるよ」
勇「リカルドはそんなに繊細じゃないでしょ。続けて」
歩「(仕方なくという様子で)わかったよ」
 歩、食事を再開する。
 勇、歩が咀嚼するのに合わせて、口をもぐもぐさせる。
 歩、弁当に視線を落として、できるだけ勇を見ないようにする。

× × ×

 歩、箸を置く。
歩「ごちそうさま」
勇「はい、ごちそうさま」
歩「食べてる気分にはなった?」
勇「なりました。心がおいしいと言ってましたよ」
歩「役に立てて良かったよ」
 勇、軽く頭を下げて、
勇「今日はありがとうございました。またよろしくお願いしますね」
歩「また? 見られながら食べるのは恥ずかしいから、別の手段を考えない? 動画を見ながらにするとか…」
勇「でも動画にはにおいがないんですよね… (歩の目を見て)もうやってくれないんですか?」
歩「どうしてもこれがいいの?」
勇「これがいいんです。だってリカルドを見つめることまでできて、一度で二度もおいしいんですから」
 歩、笑って、
歩「わかったよ。またやろう」
勇「リカルドが彼氏で良かった。今すぐキスしたいけど、今したら死んじゃう」
歩「後でいくらでもイチャイチャできるよ」
 歩、愛おしそうに勇を見つめる。

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