the small garden

※尚人と瑞希は恋人です。
※瑞希は双極性障害、アルコール依存症、ギャンブル依存症の当事者です。
※尚人はアルコール依存症と薬物依存症から立ち直った経験があります。
※和真には共感性と良心に乏しい特性があります。いわゆる「サイコパス」です。

○寮 瑞希の部屋 リビング 夜

 インテリアはブラウンと黒を基調とした落ち着いた雰囲気。部屋は清潔で整っている。
 成美、和真、ソファーに隣り合って座り、その対面に尚人が座っている。ソファーの間にはテーブルがあり、その上には飲み物や菓子が置かれている。
 瑞希、携帯灰皿を持ってリビングに入って来る。
瑞希「タバコ、切らしたわ。買いに行かな」
成美「いっそ禁煙したら?」
瑞希「禁煙な…」
 瑞希、尚人の隣りに座る。
瑞希「タバコ、高なったもんな」
尚人「ちょっと買うのをためらう値段にはなったよな」
和真「俺も禁煙を考えてるんだよね。そこまでして納税するのもバカバカしくて」
成美「いいじゃん、禁煙しろよ。お前らは今でも最高のダチだけど、禁煙したらもっと最高だぜ」
和真「そう言われるとやめたくなくなるな」
成美「何でなんだよ」
和真「だって癪に障るじゃん、成美に従ってるみたいで」
尚人「(笑って)和真らしいわ」
瑞希「俺も禁煙するつもりはないかな…」
成美「お前は禁煙しろ。金がねぇんだから」
尚人「体調の心配もあるからな… 瑞希がタバコをやめるんやったら、俺も一緒にやめるで」
 瑞希、黙り込む。
和真「瑞希はまず禁酒が優先でしょ。そこは急かすべきじゃないよ」
尚人「それはそうやな…」
 瑞希、ため息をつく。
瑞希「せめてタバコくらいは許してほしいねん。酒も飲まれへん、食事も節制せなあかん、ギャンブルは言うまでもあらへん、何に喜びを見出したらええんかわからへん…」
 少しの静寂。
成美「他にも楽しいことはあるって言いたいところだけど… そう簡単じゃねぇよな」
 少しの静寂。
尚人「瑞希、とりあえず気分転換してみる? どこか出かけへん?」
瑞希「ごめん、今はそういう気分ちゃうねん」
尚人「…オッケー、無理せんとこう」
瑞希「ホンマにごめんやで。暗い雰囲気にするつもりなかったんやけど、ちょっとうつに入ってるみたいで…」
尚人「気にしてへんよ。生きてたらええときも悪いときもあるよ。一人になりたい?」
瑞希「俺、一人になったらなったで何するかわからへんから…」
和真「瑞希はそうだね」
 少しの静寂。
成美「だったら空想でもするか、瑞希が元気になったら何をするか。俺は遊園地に行きたい」
尚人「それは成美が行きたいところやろ?」
和真「(笑って)瑞希、遊園地に行ってもやることないじゃん」
瑞希「メリーゴーランドくらいしか乗られへん」
成美「色々と挑戦してみようぜ。ギャンブルに代わる刺激になるかもしれねぇじゃん。ジェットコースターもほとんど慣れみたいなもんだし」
瑞希「ホンマに慣れるんやろうか… 並んでるだけで気絶したことあるのに?」
和真「ダメそうだね」
瑞希「それに遊園地は人混みもしんどいかな」
和真「だったら政治にハマるのはどう? 俺の友達にも無気力に生きてた人がいたけど、政治にハマってから別人のように生き生きしてるよ」
成美「それこそ人混みに出ることになるだろ、デモとか」
和真「ネットで活動すればいいんだよ。動画とかAIで作れるし、バズればお金にもなるし」
尚人「それ、どうなんやろうか…」
瑞希「ちなみにどっちの陣営を想定してる?」
和真「もちろん極右だよ。左翼じゃバズらないよ。今は人種差別と性差別と権威主義が熱いでしょ」
成美「クズのライフハックじゃねぇか! そんなもんを勧めんな!」
尚人「和真、君には年に一回くらい『友達をやめようかな』って思う瞬間がある…」
和真「ちょっと、俺は実際にはやってないから。あくまで例として挙げただけだよ、新しい娯楽としてどうかなって」
瑞希「確かにドーパミンはめっちゃ出そうやけど…」
成美「瑞希、絶対にやるなよ。お前、そういうこと始めたら帰って来られなくなるタチだからな」
瑞希「(鼻で笑って)絶対にやらへんわ。俺にもプライドがあんねん。ただやなくても人として底辺やのに、さらにネトウヨとか終わってるやろ。そこまで堕ちるくらいやったら死んだるわ。生きてるだけ恥や」
尚人「それは言いすぎやろ…」
和真「俺は瑞希に同感だけどな。プライドなんだよね、結局。ヘイトデモに参加したりネットに差別的な投稿をしたりって、その瞬間はハイになって楽しいかもしれないけど、人生には汚点しか残らないじゃん。俺はこんなに美しくて完璧なのに、自分で自分を愛せなくなってしまう…」
成美「(棒読みで)はい、はい、伴和真さんは素敵ですね」
尚人「顔はすばらしいかもしれへんけど、記憶力は救いようがないみたいやな。さっき自分で言うてたことも忘れたらしい」
瑞希「とにかく政治活動もなしやな。この精神状態では厳しい気もするし」
尚人「そうやんな…」
瑞希「病人は立場が弱いから、ホンマは声を上げた方がええんやろうけど… もちろん左派としてやで」
尚人「でも政治参加の形はそれだけちゃうし。自分にできることをやったらええよ。俺もそうしてんで」
成美「だけど生きがいにはならねぇよな、それじゃ…」
 成美、少し考え込んでから、
成美「そうだ、瑞希、宗教はどうだ。ハマれば生きがいになるぞ。イスラム教に改宗しろ」
尚人「(微笑んで)それはええ案やな」
瑞希「えっ…」
和真「俺も良いと思うけどね。案外、あっさりと酒もギャンブルもやめれるかもよ」
尚人「瑞希、俺もかつては自暴自棄な生活してたけど、al-ḥamdu li-llāh、神の導きと医療の助けで立て直せたから」
瑞希「そんなにうまくいくんやろうか… 今でもしょっちゅうスリップしてるのに…」
尚人「もちろん俺やって全てが順調やったわけちゃうよ。それでも俺がここまで回復できたのは、自分がアルコールやドラッグに対して無力であることを認めて、神に全てを委ねることができたからやな」
瑞希「尚人はそうやったかもしれへんけど… 俺がイスラム教に改宗したところで、酒もギャンブルも断ち切れんバッド・ムスリムになるだけやろ」
成美「心配すんな、尚人よりはマシだ。尚人なんて悪びれずに葉っぱやってるぞ」
和真「それで説教できるんだから大したもんだよね」
尚人「でもクルアーンには『大麻はハラーム』とは書いてへんから…」
瑞希「イスラム教で何て言うてるんかは知らんけど、まず法律くらい守れや。やっぱり宗教もなしやな」
和真「尚人じゃ説得力がなかったか…」
尚人「俺やからあかんかったん!? それやったら信頼してるムスリムの知り合いがいてるから、その人を呼んで話(はなし)してもらうって手も…」
瑞希「お前があかん奴なのはそうなんやけど、改宗って一生の決断やん。そう簡単には決められへんよ」
尚人「わかった。君には君の信仰があるからな」
成美「政治も宗教もダメか… 他に何がある?」
尚人「運動するんはどう? スポーツはええ気分転換になるし」
和真「それが無難だよね」
瑞希「最終的にそうなるんやな… 医者にも同じこと言われたわ」
成美「でもジムには行ってるんだろ?」
瑞希「ここのところちょっとサボってるな」
尚人「ほな、調子が良うなってからでええから、俺が通ってるところに一緒に行こうや」
瑞希「尚人が通ってるところに!? レベルが高すぎるやろ… 俺みたいな一般人が入ったらマッチョに押し潰されてまう」
尚人「そんなことないで。俺みたいに普通の平凡な人もいてるから」
瑞希「尚人、お前は普通の人ちゃうねん。マッチョやねん。フィジークやってる奴のことを『平凡』とは呼ばんねん、一般的に」
成美「尚人、お前が通ってるところはジムじゃねぇ、魔境だ」
尚人「そんな大袈裟な…」
和真「でも瑞希は肝臓が良くないから魔境は危ないかもしれないね。負荷が大きすぎる。それよりも瑞希にちょうどいい運動があるよ」
成美「『セックス』って言いたいんだろ」
 和真、舌打ちする。
和真「先に言われたらおもしろくないよ」
成美「だって和真が言いそうなことなんてそれしかないし」
和真「瑞希、俺がトレーナーになってあげるよ」
瑞希「いらんわ。何で俺がお前とやらなあかんねん。専属のトレーナーいてるし」
尚人「瑞希!?」
瑞希「頻度も間に合ってるわ! 週に2、3回はしてるから。多いときは5回や!」
成美「盛んだな」
和真「それならお邪魔だったかな」
尚人「(慌てた様子で)瑞希、いきなり何てことぶっちゃけてくれてんねん!?」
瑞希「そこまで言わんと諦めてくれへんかなって…」
尚人「そこまで言わんでも諦めてくれるって!」
和真「瑞希、本当に断るの? 俺から誘われるなんて光栄なことだよ。俺、一定の水準を上回った人しか声をかけないから。君は俺とセックスするのにふさわしい…」
瑞希「お前が俺にふさわしくないんじゃ、カス!」
和真「君には美醜がわからないようだね… でも俺もわかってなかったみたいだ。俺という芸術を理解できない人なんて…」
瑞希「誰かあいつを黙らせてくれへん?」
成美「ほっとけ。和真にとっては幸せなんだ。ほっといてもムカつくけど害はねぇよ、ムカつくけど」
尚人「ところで何をするか決まった?」
瑞希「さっきの会話で決まると思うけ?」
尚人「決まらんよな」
成美「瑞希がわがままだからよ…」
瑞希「お前らがもっとマシな案を出せや。でもそうやな…」
 瑞希、少し考え込んでから、
瑞希「尚人と運動でもしようかな」
成美「お熱いことで」
尚人「(瑞希から目を逸らして)ええっと… それはそれで嬉しいけど」
瑞希「やっと涼しなったしランニングとかええよな」
成美「そっちか」
尚人「そ、そうやんな、運動やもんな」
瑞希「何や? セックスの話ちゃうで。それはわざわざ宣言せんでもすでにしてるやん」
尚人「その通りやけど…」
和真「途中から聞いてなかったんだけどセックスの話? 俺も混ぜてよ。3Pでもいいんだよ」
瑞希「3P? 和真もやるけ、ランニング」
和真「ランニングか… ここのところ運動不足だったからいいかも。体型維持は美の基本だからね。ちなみに成美が4Pしたいって」
尚人「ええやん、成美もやろうや」
成美「何で俺まで参加することになってんだよ。嫌だよ」
瑞希「何でやろ… そっちの方が楽しいから? 楽しいこと探してくれるって話やろ?」
成美「そう言われたら断りづらいな… 走るなら夜にしてくれよ。朝は起きねぇぞ」
瑞希「ほな、体調が整ったらランニングで4Pしようか」
尚人「決まりやな」
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