the small garden

※知久と成美はQPRのパートナーです。

○寮 知久の部屋 LDK 夜

 インテリアはインダストリアルを基調としていて、室内は清潔で整っている 。
 キッチンはペニンシュラタイプ。ダイニングにはテーブルと椅子が置かれていて、知久は椅子に座っている。テーブルの上にはコピー用紙、文房具、スマホ、アイスコーヒーが入ったコップ。
 知久、コピー用紙にシャーペンで絵を描いている。絵はラフに描かれたライオン、トラ、ヒョウ。
 チャイムが鳴る。
 知久、手を止めて顔を上げる。
 玄関のドアが開く音。
成美の声「(声を張り上げて)トミー、入るぞ」
知久「(声を張り上げて)どうぞ」
 知久、テーブルの上にシャーペンを置き、両腕を上に伸ばす。
 廊下を歩く音。
 ドアが開き、成美が室内に入って来る。成美、キッチンの方に向かいながら、
成美「ビールとかある?」
知久「図々しい奴やな… 何もないで」
 成美、冷蔵庫を開けて、
成美「あるじゃん」
 成美、冷蔵庫からビールの缶(500ml)を取り出し、ダイニングの方へ向かう。
知久「お前、俺の部屋を自分の部屋やって思ってるやろ」
 成美、知久の向かいの椅子に座って、
成美「だって合鍵くれたじゃん」
知久「やっぱり返してもらおうかな…」
 成美、缶を開けながら、
成美「絵でも描いてたの?」
知久「そうやで。タトゥーを増やそうと思ってて、どんな柄にしようかなって」
成美「また増やすのかよ。ちゃんと耳にも入れとけよ。平家の霊に耳だけ持っていかれるぞ」
知久「まだそこまで増やしてへんから。他にも入れるところあるわ」
成美「タトゥーの柄って自分で考えるものなの?」
知久「これをこのまま彫ってもらうわけちゃうで。俺は彫り師さんに相談して決めてもらってるな。これは何となくのイメージを伝えるために描いてねん」
成美「そうなんだ。次はイカついのにするの?」
知久「イカついのにしたいというか… 今までネコかStar Warsのモチーフが多かったから、今度は趣向を変えようかなって」
成美「結局はネコじゃねぇか」
知久「大きな括りで見たらそうなんやけど…」
成美「トラはやめとけ。瑞希と被るぞ」
知久「でも寺田さんは今は消してるから。図柄もだいぶ違う雰囲気にするつもりやし」
成美「ヒョウも行方が入れてるんじゃなかったか?」
知久「あれはヒョウと違ってジャガーなんやけど… 確かに被ってる感じはあるよな。ライオンにしようかな」
成美「あれはどうよ、マヌルネコ」
知久「マヌルネコ、かわいいよな。でもタトゥーにするには微妙やろ」
成美「俺は嬉しいけどな、パートナーにマヌルネコのタトゥーがあったら」
知久「タトゥーは一生␣残んねんで。ネタで入れたら確実に後悔するわ」
成美「俺の名前にするのは?」
知久「何でやねん」
成美「だってパートナーだし。行方はイッサの名前を入れてるらしいじゃん」
知久「そうやったな」
成美「トミーは入れてくれないのかなって」
知久「そこは恋人と友達ではちゃうやろ」
成美「何が違うの? お前、友情は恋愛より価値が低いと思ってたの? ショックだわ」
知久「そういうわけちゃうんやけど…」
 少し間を置いて、
知久「…わかった。成美も俺の名前を入れてくれるんやったら、俺も入れたってもええで」
成美「マジかよ、ハードルが高ぇ… でもイッサはタトゥーを入れてねぇらしいぞ」
知久「よそはよそやから。俺、パートナーとは対等な関係を望んでんねん」
成美「全体的に釣り合ってたらいいじゃねぇか、そこまで揃えなくても」
知久「できるだけ長く一緒にいたいとは思ってるけど、もし俺らがそれぞれの道を選んだときに、俺だけタトゥーが残ってたら最悪やん」
成美「そこか… 気持ちはわかる。それは嫌だわ」
知久「わかるやろ? せやから成美にも道連れになってもらうで」
成美「そうだな…」
 成美、少し考え込んでから、
成美「入れるかどうかは置いといて、とりあえず入れるとしたらどんなやつにするかは考えようかな」
知久「ええな」
 知久、シャーペンを手に取って、
知久「名前にしたいねんな?」
成美「絶対に名前にしたいってわけでもねぇけど… 他に何かある?」
知久「何やろうな…」
 知久、シャーペンを回しながら考え込み、
知久「お互いにお互いの好きなものを入れるとか?」
成美「好きなものか… トミーはやっぱりStar Wars?」
知久「それかネコやな。他人に刻んでもらうもんなんやから、そんなところまでStar Warsにしてもらおうとは思ってへんよ」
成美「俺はどうしようかな… ジョーカーかな」
知久「そこは自分の趣味にするんかい」
成美「トミーだって好きだろ、ジョーカー」
知久「俺の好きなヴィランはベイダーやから。そこは譲らへんで」
成美「徹底してんな。それならUFOとかUMAとかにしてもらおうかな。ダース・ベイダーを差し置くわけにいかねぇからな」
知久「UFOかUMAか…」
 知久、紙にUFOの絵を描く。絵はゆるくてシンプル。
成美「ゆるいな。それでいいのかよ」
知久「あくまで何となくのイメージやから」
 知久、UFOの隣りにネコの絵を描く。
成美「それもゆるいな」
知久「かわいいやろ?」
成美「いっそ二つを組み合わせてみるのは?」
知久「組み合わせる?」
成美「せっかくなら二人で同じ図柄にしたいなって」
知久「それもありやな」
 知久、ネコの顔にタコのような体をした生き物の絵を描く。
知久「こんな感じ?」
成美「それはそれでかわいいんだけどよ。それを刻むのか…」
知久「組み合わせろって言うたやん」
成美「そうだ、キャトられるネコは?」
知久「キャトられるキャットな」
 知久、UFOに連れ去られるネコの絵を描く。
知久「ええんちゃう?」
成美「いいな、それ。これで決まりにしようぜ」
知久「オッケー」
 知久、絵を囲むように円を描く。
 知久、シャーペンを置いて、
知久「タトゥー、入れることにしたん?」
成美「どうしようか考えてるところ」
知久「別に無理して入れんでええで、さっきはあんなこと言うたけど」
成美「俺が入れなくても入れてくれるってこと?」
知久「それはどうやろうな… 今後の関係性によるかな、これからもパートナーを続けるって確信を持ってから」
成美「それはそうだよな」
知久「5年か10年の記念にするってことで」
成美「そのときは本当にトミーだけでいいの?」
知久「ええよ。自分がタトゥーを持ってるからこそわかるけど、ホンマに色々と面倒になるから」
成美「温泉もプールもダメになるもんな」
知久「ジムもあかんかったりするな。排除されて当然と思うつもりはないけど、現実問題、タトゥーを入れることは差別を受け入れるってことでもあるから」
成美「だよな。たぶん俺は入れねぇわ」
知久「それでええよ」
成美「それにしてもキャトられるキャットを入れてもらえるのはだいぶ先なのか…」
知久「入れることがあるんかさえわからへんもんな」
成美「俺はそれまで一緒にいるつもりだけど?」
知久「俺もできればそうしたいけど… 成美には成美の人生があるんやから、俺のことは気にせんでええねんで」
成美「俺は他人に縛られるつもりはねぇよ。自分で選んだことだよ」
知久「えっ…」
成美「だって金を持ってるからな。何があっても手放さねぇよ」
 少しの静寂。
知久「…一瞬、本気にしたんやけど」
成美「ごめん、冗談だって、本気にすんな」
知久「お前、冗談にしてええことと悪いことの違いもわからへん? 頭にウジでも湧いとんのか」
成美「マジでごめんって。ふざけすぎた。トミーのことは大事に思ってるよ」
 知久、深く息を吐く。
知久「もうええわ。成美、やっぱりタトゥーを入れろ。『I’m a f***ing piece of s***』って顔面に刻め」
成美「それ、入れちまったら生きていけねぇやつじゃん」
知久「それくらいはわかったんや? アホやからわからんまま彫ってくれるかと思ったんやけど」
成美「ファッキン・シットくらいわかるよ、バカヤロー」
知久「…とにかく今日はもう帰れ。消えろ」
成美「トミー、まだ怒ってる?」
知久「今は怒ってる。俺が短気なことくらい知ってるやろ。このままお前の顔を見てたらどつき合いになりかねん。成美が冗談やったことくらいはわかってるよ」
成美「…そうか、悪かった、帰るよ」
 成美、椅子から立ち上がる。
知久「あっ、300円、後で払ってもらうから」
成美「300円? 何のことだ?」
知久「さっきビールを飲んだやん。タダちゃうで、あれ」
成美「金まで取んのかよ… ケチな奴だな」
知久「タダやなくなるようなこと言うたからやろ」
 知久、手で追い払うようなジェスチャーをしながら、
知久「ほな、さよなら」
成美「またな」
 成美、出口の方へ向かう。
1/4ページ
スキ