ちょっとブレーメンまで

真澄「あの土地とご馳走、必ず手に入れようね!」
尚人「方法は?」
真澄「あれに決まってるじゃん。"ブレーメンの音楽隊"だよ?」
勇「(軽くストレッチしながら)いよいよクライマックスが来ましたね」
知久「ちょっと待って。まさか俺の上に乗るつもりなん?」
真澄「当たり前じゃん」
知久「泥棒を脅す方法なんて、他に色々あるやろ? もっと考えようや」
栄太「ありません。これはブレーメンの音楽隊です。方法は一つだけです」
知久「せめて順番を変えへん? 宇野さんか相良さんやったら、何とか土台が務まるかもしれへん」
栄太「それは認めません。原作の通りトミー、スミ、宇野さん、相良さんの順です」
知久「無理があるって。物理的に不可能やろ」
栄太「仕方ありませんね。難しいだろうと思って、助っ人にスタンバイしてもらっています。助っ人さん、入ってください」
 透、和真、やる気のなさそうに歩いてくる。
 衣装は黒の全身タイツ。
透「何で俺がこんなこと…」
 和真、知久の前で立ち止まり、
和真「トミー、元気を出して。俺の方が扱いがひどいから」
知久「(笑顔になって)めっちゃ元気になった。これでも俺、主役やからな」
栄太「これでピラミッドが組めますね。では指示しますね。下段はトミー、透くん、和真。中段はスミ、宇野さん。上段が相良さんです。相良さんは上で立ってください」
知久「俺が下なことは変わらへんのや…」
透「センターは主役に譲るよ」
知久「嫌や、端がええって! そこキツいポジションやん」
透「贅沢を言うな」
和真「こんな惨めな役やらされてるんだから、せめて端に行かせてよ」
 知久の両脇に、透と和真が並ぶ。
 知久、透、和真、四つん這いになる。
 真澄、尚人、彼らの後ろに立つ。
真澄「ピラミッドなんて久々にやるね。うまく乗れるかな」
尚人「俺はやったことないんよな」
 尚人、透の背を踏み、土台が安定しているか確認する。
尚人「そろそろ乗るで。俺、重たいけどイケる?」
知久「無理です…」
和真「無理でも逃れられないんだろうけどね」
透「乗るなら早くしろ」
 真澄、尚人、上に乗る。
尚人「イケそう?」
知久「アカン… ホンマに重い…」
透「これは厳しいかもしれない…」
勇「そろそろいきますよ」
 勇、ピラミッドに登る。
 真澄、バランスを崩す。
勇「降ります!」
 勇、ピラミッドから降りる。
真澄「ごめん」
勇「いいえ。僕が重たいからですね」
 真澄、体勢を立て直す。
勇「いきます!」
 勇、ピラミッドに登る。
透「まだ?」
和真「もう持たないよ…」
知久「こんなしんどい思いして、何の意味があるんかな。ピラミッドを組み立てる過程、全て泥棒に見えてるし」
和真「疑問に思っちゃダメだ。心が折れるよ」
 勇、バランスを取りながら、頂上で立ち上がる。
勇「立ちました!」
栄太「では力を振り絞って! 鳴き声を上げてください」
和真「助っ人の鳴き声って?」
栄太「ショッカーの声です」
透「ショッカーって何だよ」
和真「仮○ライダーの雑魚のこと。イー!って言うんだよ」
 一同、一切に鳴き始める。
 勇の声が目立ち、他は苦しそうに呻くような声。
勇「コケコッコー!」
真澄「ワン!」
尚人「にゃー」
知久「ヒーホー!」
和真「イー!」
透「イー!」
 昴、瑞希、成美、ピラミッドの方を見る。
 同、椅子から立ち上がり後退りする。
瑞希「何や、あれは!?」
成美「何でタイツでピラミッドやってるんだよ」
昴「退治しましょうよ」
成美「やめろ! あんなヤバいの相手にするな!」
昴「でもご馳走が…」
瑞希「これが最後の晩餐になってもええのけ? 逃げるで!」
昴「さよなら、僕のご飯… また会う日まで」
 昴、瑞希、成美、走って逃げる。
真澄「もう無理! 早く降りて!」
勇「すみません!」
 勇、ピラミッドから降りる。
 一同、続いてピラミッドを解体する。
尚人「逃げた?」
和真「逃げるだろうね。こんなタイツに立ち向かおうとは思わないよね」
 スピーカーから拍手する音。
栄太「やりましたね! みんなで力を合わせれば、成し遂げられないことはありません」
 勇、拍手しながら、
勇「仲間って良いですね…」
知久「どこに感動したん? やってることは脅迫やで」
尚人「物語は勝者によって語られるんやで。イッサは勝ったんやから、これを美談に書き換えようが自由やねん」
知久「世の中に溢れる美談は、こうやって捻じ曲げられてるんやな」
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