ちょっとブレーメンまで

◇物流倉庫 中

 棚に囲まれた空間で、知久が眠っている。
 知久はブラウンの全身タイツに、ロバの被り物を身に付けている。
 知久、目を覚まし、ぼんやりと天井を眺める。
 知久、意識がはっきりしてきたところで、跳び上がるように上半身を起こす。
知久「どこ!?」
 知久、周辺を見回す。
 知久、服装がおかしいことに気づき、全身タイツを引っ張ったり、被り物を触ったりする。
 知久、あぐらを組んで座り直し、うなだれて考え込む。

◇(回想)繁華街 外 夜

 知久、友人A、友人B、雑談しながら繁華街を歩いている。
 飲みに行った帰りなので、顔が赤くなっている。
 駅の近くまで来たところで、彼らが立ち止まる。
知久「(右手を軽く上げて)ほな俺は電車やから」
友人A「俺たちはタクシーで帰るわ」
友人B「また飲もうな」
知久「うん、元気でな」
 知久、友人に背を向け、駅に向かう。
 知久、改札を通り抜ける。

◇(回想)ロビン寮 廊下 夜

 知久、自室の鍵を開け、中に入る。
 扉が閉まる。
知久「アレクサ、ただいま」

◇物流倉庫 中

 知久、うなだれたまま。
知久「ホンマにどこやねん…」
 天井のスピーカーから、栄太の声がする。
栄太「やっとお目覚めのようですね。おはようございます」
 知久、知人の声が聞こえて、安堵の表情。
 知久、天井を見上げる。
知久「もしかして栄太? どこにいてるん?」
栄太「栄太? 誰のことでしょう? 私は天の声です」
知久「栄太やんな? ここどこ?」
栄太「ここですか? ドイツですよ」
 知久、近くの棚に目をやる。
 棚の中には、日本語が書かれた段ボールが積まれている。
知久「どう見ても日本やろ」
 知久、再び天井を見上げて、
知久「ホンマはどこなん?」
栄太「だからドイツですって。この道はブレーメンへ通じているんです」
知久「これ何のドッキリ?」
栄太「ドッキリ? 滅相もない。ずっと二人三脚で歩んできた相方なのに、私がトミーのことを騙すとでも?」
知久「よう言うわ」
栄太「これは神からの指令です。今から仲間を探しながら、ブレーメンを目指してください」
知久「いきなり意味がわからへんのやけど…」
栄太「とりあえずブレーメンへ向かえばいいんですよ。まずは犬を探してください。ついでにトミーはロバですからね」
 知久、立ち上がり、自分の格好を見る。
知久「これロバの衣装やったんや…」
栄太「では先へ急ぎましょうか。貴方の主人が、ロバを処分したがっているようなので」
 昴、息を潜めながら、空間の隅に立っている。
 昴は鞭を持ち、ヨーロッパの農民のような服を着ている。
 昴、軽く会釈して、
昴「どうも。ロバの飼い主です」
 知久、昴の存在に気づいて驚く。
知久「びっくりした!? そこにおったんや」
 昴、鞭で床を叩きながら、
昴「すみません、僕、君を追い立てる役をやらないといけないんです」
知久「まだ状況を飲み込めてへんのやけど…」
 昴、鞭を打つ。
 知久に当たらないように、足下のギリギリを狙う。
 知久、すかさず避ける。
昴「本当は動物虐待なんてしたくないんですけどね。手段を選ぶな、と台本に書いてありますので」
知久「(後退りしながら)わかった! 行くから!」
栄太「トミーが賢明で助かります。では順路に従ってください。幸運を祈ります」
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