竜宮城は右の果てに

○竜宮城-中 昼

 知久、歩、ブルーシートをくぐり、竜宮城の中に入る。ドローンは中には入らない。
 足元は砂が剥き出し。空間の奥の方に、P箱を並べた上に、ベニヤ板を敷いた台がある。台の上にはIKEAの椅子が置いてあり、その後ろには屏風(ダンボールに絵を描いたもの)が立っている。台は黄色のテープで縁取られている。屏風の後ろにも出入口がある。
 知久、竜宮城の中を見回して、
知久「軍事費、どこに注ぎ込んだんやろ…」
 歩、知久、奥の方へ進みながら、
歩「乙姫さま、いらっしゃいますか、乙姫さま」
 屏風の後ろから真澄の声。
真澄「誰かお客さん?」
 真澄、屏風の後ろから現れる。
 真澄はブルーの現代的な漢服(生地はペラペラ)を着て、オーガンジーのショールを両腕に掛けている。
真澄「(優しく微笑み)ようこそ、竜宮城へ」
 真澄、台に上がり、椅子に座る。
真澄「私は竜宮城の主の乙姫。(知久の方を掌で示し)この方は?」
歩「彼は浦島太郎。俺が不良に絡まれてたところを助けてくれたんです」
真澄「あの不良集団をやっつけてくれたの?」
知久「そういうことらしいです」
歩「しかも彼、ジェダイなんです」
 真澄、驚いた様子で立ち上がり、
真澄「ジェダイだって!? つまり強いってことだよね? 最強の遺伝子じゃん」
知久「(表情が引き攣る)キモい…」
真澄「せっかくジェダイが来てくれたんだから、こちらもできる限りの歓迎をしないと」
 真澄、手を叩く。
真澄「ジェダイのためにダンスを披露してあげて」
 スピーカー(屏風の裏に設置)から氣志團の『One Night Carnival』のイントロが流れる。
 屏風の裏から成美、和真、尚人、瑞希が現れ、台に上がる。
知久「ストップ、ストップ! どういうこと!? さっき亀を虐めてたよな?」
 音楽が止まる。
和真「何? 俺ら、踊れないの? けっこう練習したのに」
知久「お前らがそこにおったらおかしいんやって」
尚人「何もおかしいことないけど。俺らはただ仕事をこなしてるだけで」
知久「やっぱりグルやったんか…」
真澄「(ヤンキーの方に向かって)もういいよ。下がって」
成美「練習が無駄になったじゃねぇか」
 成美、和真、尚人、瑞希、台から降りる。
 真澄、椅子を持って、台に上がる。
 真澄、椅子を台に置いて、座る。
知久「俺のことハメたん?」
真澄「そういうことになっちゃうね」
歩「ハメられて良い気はしないだろうけど、これはトミーにとっても悪い話じゃないんだ。乙姫さまに必要とされてるんだから」
知久「必要とされようがされまいがどうでもええんやけど…」
真澄「まだ使命の尊さがわからないようね。トミー、改めて自己紹介するね。私は竜宮城の主、そして竜人の姫、乙姫。本当は海で暮らしてたんだけど、王室とはちょっと政治的見解の違いがあって、仲間と一緒に独立することにしたの」
知久「そうなんや…」
真澄「でも理想を達成するためには、まだ人員も軍事力も足りなくて。さっきの亀を助ける課題も、より強い仲間を探すためだったの。騙したみたいになっちゃってごめんね」
知久「(訝しげな表情で)それで俺に何をしてほしいん?」
真澄「まずは戦うこと。今、ちょっと対立してる団体がいてね… それから竜人の血をより高貴で優秀にするために、貴方に貢献してほしいの」
知久「…俺、もしかしてヤバい人と関わってもうた? でもヤバい思想を持ってるわりには、部下は多様なんやな」
 真澄、わざとらしくため息をつき、
真澄「そう、そこが問題なの。どこもかしこも人手不足で。だからこそトミーのような理想的な日本人を求めてたの。先祖は辿れる限り日本人で、高学歴、高収入、健康、そしてイケメン…」
 知久、思わず後退りして、
知久「ホンマにキモい。優生思想やん、差別主義者やん」
真澄「(うっとりしたように)差別主義者…良い響きね…」
知久「そこ、喜ぶところなんや…」
瑞希「当たり前やん。喜ぶも何も賞賛でしかないやろ」
尚人「人の上に立つように、神が乙姫さまを創造されたんや。差別は神から与えられた特権やねん」
和真「乙姫さまが羨ましいよ。俺も誰かを差別しながら生きたかった…」
知久「こいつら、完全にキマってる…」
真澄「トミーも差別主義者になりたいとは思わない?」
知久「思わへんよ」
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