これが私の生きる道

○同 夜 日替わり

 知久、成美、テーブルを挟んで、向かい合ってソファーに座っている。知久はスポーティーな服装、成美はパンク・ファッションをしている。成美はばっちりメイクをしている。
 テーブルの上には書類が広げられている。知久の戸籍抄本には付箋が貼られ、親の名前が隠されている。
知久「ほな、書類を確認するで。住民票と戸籍、ある?」
 成美、書類を手に取る。名前の欄には「星 竜成」と書かれている。
成美「こっちが住民票、こっちが戸籍謄本。オッケー」
知久「そして本人確認ができるもの」
成美「マイナンバーカードでいいよな?」
知久「うん、それでイケるで。それと成美は通称で生活してることを証明できるもの」
成美「診察券と郵便物、ある」
知久「明日、絶対に忘れたらあかんで」
成美「さすがに忘れねぇよ」
 成美、知久の戸籍抄本に目をやり、
成美「その付箋、そういえば何?」
 知久、付箋の上を掌で覆い、
知久「親の名前を見るのがちょっと…」
成美「…聞いて悪かった」
知久「気にしてへんよ」
 しばらく間を置いて、
成美「明日の相談だけどさ」
知久「ん?」
成美「恋人って設定で挑まない? 俺がトランスジェンダーの彼女で、トミーが彼氏ってことで」
知久「何で?」
成美「関係性についてツッコまれたら説明が難しいじゃん。ノンバイナリーとアロマアセクの友達で、俺はこんなナリだけど本当にノンバイナリーで、って…」
知久「そこまでやる必要ある? そういうこと慣れてる人が対応してくれるやろ」
成美「今まで説明してちゃんと伝わった試しがねぇ」
知久「聞いた話によると、けっこう事務的な対応らしいで。いちいちそんなこと聞かれへんと思うけど」
成美「そういうもの?」
知久「そういうもんやろ。万が一でもツッコまれることがあったとしたら、俺が適当にええように言うとくよ。言い訳は得意やから」
成美「任せるわ」
知久「ほな、明日は11時に出るからな。遅れんようにな」
成美「了解」

○寮 ロビー 朝 日替わり

 知久、ロビーに立って、スマホを操作している。服装はジーンズに長袖のカジュアルシャツ。袖はまくっている。
 エレベーターの扉が開き、成美がロビーに入ってくる。成美の服装はオフィスカジュアル。メイクは控えめ。髪は後ろで三つ編みにしている。
成美「おはよう。お待たせ」
 知久、スマホをカバンに入れながら、
知久「おはよう。(笑って)どないしてん、えらい畏まった格好して。どこに行きはるん?」
成美「お前だって珍しくYシャツじゃん」
知久「さすがにタトゥーは隠さなあかんかなって思って、暑いけど」
成美「俺もヤンキーを隠そうとしたらこうなったんだよ」
知久「(笑って)お互いさまか。ほな、そろそろ行こか」

○自動車-中 昼

 車は大阪市内を走っている。
 知久が車を運転し、成美が助手席に座っている。
成美「ここまで来てこんなこと言うのもあれなんだけどさ…」
知久「ん?」
成美「本当にこんなことしてよかったのかなって。制度を悪用してるみたいで…」
知久「悪用? 何で?」
成美「これって偽装結婚っぽくねぇ? 俺とトミーは恋人でも何でもなくて、ただの利害の一致でパートナーになるわけなんだから」
知久「変なところ気にすんねんな」
成美「だって同性婚の議論になったときに、『偽装結婚や身分偽装に使われかねない』とかめちゃくちゃ言われるじゃん。保守派からしたら『だからLGBTは信用できない』って話にならねぇ?」
知久「でも異性同士では普通に友情婚してんねんで」
成美「そうだけど…」
知久「人生の必要性に応じて制度を使うんは、異性同士やって同じことやろ。これは悪用というよりサバイブやと思うけど」
成美「サバイブ、な…」
知久「やれることは全てやらな、マイノリティーは生き残られへんからな」
 前方に役所が見える。
知久「あっ、あれやな」

○役所 駐車場 昼

 知久、成美、役所の方に向かって、駐車場を歩いている。
成美「トミー、職員と話すのは任せた」
知久「はい、はい、わかってるよ」
成美「俺は隣りで置き物になっとくから」
知久「職員さんに『はい』くらいは言えや」
成美「トミーが代わりに返事してくれるんじゃないの?」
知久「甘えすぎやろ」
成美「だって役所とか苦手なんだもん。コームインはヤンキーが嫌いだし、ヤンキーもコームインは嫌いなんだよ」
知久「今回は丁寧に接してくれると思うで」
成美「帰りは運転するって」
知久「それはしていらん。運転がヤンキーやねん」
 知久、成美、役所の入口の前で立ち止まる。
成美「俺、ちゃんとした大人に見えるよな?」
 知久、タトゥーを隠すため、シャツの袖のボタンを留めながら、
知久「うん、大丈夫やで、喋らんかったらな」
成美「じゃ、やっぱり喋らなくてもいいってこと?」
知久「しゃあないな… ほな、行くで」
 知久、成美、入口から中に入る。

○カフェ-中 昼

 店内はレトロで落ち着いた雰囲気。
 知久、成美、テーブルを挟み、向かい合って席に着いている。知久の前にはアイスコーヒーとサンドイッチ、成美の前にはミックスジュースとケーキが置かれている。
成美「トミー、今日はありがとな」
知久「こちらこそ。成美、ホンマに置き物やったな」
 成美、背筋を伸ばして座り直し、笑みを作る。
知久「(笑って)そんなお上品な顔できるんやって、あそこで初めて知ったわ」
 成美、リラックスした姿勢に戻って、
成美「俺、やればできる子だから」
知久「ほな、職員さんに返事くらいできるやろ」
成美「できないことはしないのが俺なりの努力だから」
知久「パートナー、解消しようかな…」
成美「待てって。確かにできないことはしないけど、できることはできるだけするって」
知久「ホンマに? 俺が倒れたときに手続きとかできる?」
成美「栄太に手伝ってもらうから大丈夫」
知久「(笑って)そのくせに俺に保険金をかけるときだけはスムーズやったりして」
成美「(わざとらしく驚いたように)俺が保険金について調べてたこと、何で知ってるんだよ」
知久「(笑って)むしろバレてへんと思うてたん?」
 知久、サンドイッチを食べる。
 成美、財布からパートナーシップ宣誓書受領証を取り出し、手にして眺める。
成美「これで安心して生きていけるかな」
知久「多少は、な。同性婚が欲しいところではあるけどな」
成美「世の中、頼れる家族もいない、パートナーもいないって人はどうやって生きてるんだろうな」
知久「ただただ困るしかないよな」
成美「それが現実か…」
知久「俺らにはたまたまお互いがいてるだけ、捨てる神あれば拾う神ありってことなんかな」
 知久、右手を差し出して、
知久「これからはよろしく頼むで」
 成美、カードをテーブルに置き、知久の手を握る。
成美「もちろん。保険金の受取人は俺にしといてくれ」
 知久、握った手を離して、
知久「やっぱり解消で」
成美「冗談だって」
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