隠したいことの一つや二つ

× × ×

 一同、メインストリートを歩いている。
 尚人、コートの前を開けながら、
尚人「ちょっと着すぎたかもしれへん」
和真「暑いの?」
 尚人、頷いて、
尚人「うん、コートまではいらんかったな」
瑞希「脱ぐけ?」
尚人「そうするわ」
 尚人、瑞希、和真、立ち止まる。
 成美も続いて立ち止まり、振り返って、
成美「おい、勝手に止まるな!」
尚人「ごめん。一瞬だけ待って」
 瑞希、尚人からカバンを受け取る。
 尚人、コートを脱ぐ。
 成美、コートを指差して、
成美「それだ! それで隠れるじゃん。尚人、寄越せ」
尚人「(嫌そうな表情で)かまへんけど… 自分の部屋に持って帰ったらあかんで」
成美「友達なのに信用ねぇな」
尚人「さっき自分がやろうとしてたこと忘れたん?」
 尚人、成美にコートを差し出して、
尚人「ほら、ええよ」

× × ×

 一同、再び歩いている。成美と和真は前方に、尚人と瑞希は後方のポジション。成美は尚人のコートを着ている。尚人は成美のライダースジャケットを手に持っている。
 瑞希、前方を睨みながら、
瑞希「ポリ、いてるな…」
 一同の進行方向の先に、2人の警察官が立っている。警察官は若者と話している。
 成美、和真の肩を叩き、前方を顎で示す。
和真「気づくのが早いね」
 瑞希、自嘲するように笑う。
尚人「(目を見開いて)あっ、ヤバい、思い出した」
瑞希「どないしてん。まさか持ってる?」
尚人「持ってる。成美、コートのポケットに入ってるわ」
成美「嘘だろ… 家に置いてけよ」
和真「問題発生?」
 成美、指文字で「ヤサイ」と表す。
和真「勘弁してよ…」
成美「道、変えるか?」
瑞希「急に道を変えるんも… このまま普通に振る舞おう」
尚人「OK」
 成美、和真の肩を叩いてから、前方に視線を送る。
瑞希「そういえば俺、最近、ハーブティーにハマってんねん」
 成美、慌てて振り向き、
成美「おい、バカ!」
瑞希「ハーブティーってあれやから、カモミールとかローズヒップとかやから!」
成美「(安堵した様子で)そうだよな、ハーブティーだもんな」
尚人「俺、ハーブティーやったらミントティーが好き」
瑞希「アルジェリアで定番なんやった?」
尚人「そう。ミントと緑茶と大量の砂糖のあれ」
成美「あれか、前に尚人が作ってくれたことあったよな」
 一同、雑談を続ける。そのまま警察官の横を通り過ぎる。警察官は若者をボディーチェックしている。
成美「ローズヒップってシソの味がするやつだろ。あれ、嫌い」
瑞希「俺は好きやけどな。確かにシソみたいな味やけど、そもそもシソってうまいやん」
成美「和真、ローズヒップってシソの味だよな?」
和真「ローズヒップ? あれはシソだね。俺は嫌いじゃないけどね」
尚人「ブレンドによっては飲みやすくなるかもしれへんで。いつか作ったろうか?」
 警察官から距離が開いたところで、瑞希が一瞬だけ振り返る。
瑞希「いけるな」
 成美、和真に向かってOKのサインをする。
和真「尚人、後で奢りだね」
尚人「ホンマにごめん」
成美「気を付けろよ、まったく。そこ、曲がるわ」
 一同、角を曲がる。
成美「瑞希、あそこでハーブティーの話はねぇわ!」
瑞希「とっさに思い付いたんがあれやったんやって」
成美「お前も鈍ったな」
尚人「今はただの公務員みたいなもんやから」
成美「尚人、コートは返す」
尚人「…わかった」
和真「下着はどうするの?」
尚人「何ならアレだけ預かっても…」
 尚人の言葉を遮り、
瑞希「ここで出すな」
尚人「ごめん… ほな、コートはもらうわ」
 一同、その場に立ち止まる。
 成美、尚人、お互いの上着を取り替えながら、
成美「道くらい普通に歩きたい人生だったぜ」
尚人「ご迷惑をお掛けしてます…」
成美「いいけどよ… まともな友達はいねぇもんかな」
和真「成美が人のこと言うなよ」
瑞希「ロクデナシにはロクデナシの友達しかできへんねん、そういうもんや」
成美「そうですね、寺田瑞希さんの言う通りですね」
 瑞希、苦笑する。
 成美、ライダージャケットを着てから、腰に手を当てポーズを決めて、
成美「これから俺は正々堂々と生きるぜ。尚人とは違って俺は後ろめたいことはしてねぇからな」
瑞希「…してへんことにしとこうか」
和真「俺らがカバーしなくてもいいんだね?」
成美「もちろん。こそこそしてる方が目立っちまう」
 成美、三人に背中を向けて、
成美「そこまで目立ってねぇよな」
和真「目立ってないよ」
瑞希「いけるで」
成美「うん、大丈夫だな」
 一同、歩き出す。成美と和真は前方、尚人と瑞希は後方のポジション。成美は背筋を伸ばして堂々とした足取り。成美はサカナクションの「アルクアラウンド」を歌っている。
 しばらく進んだところで成美が立ち止まる。和真、尚人、瑞希、続いて立ち止まる。
尚人「何かあった?」
和真「またなの?」
成美「やっぱり無理… 恥ずかしい…」
 和真、大きくため息をつく。
瑞希「せやから暗くて目立たへんって」
 成美、後ろを振り返って、
成美「そういう問題じゃねぇんだよ! パンツが出てることそのものが問題なんだよ!」
和真「だったらどうするの? 行くしかないじゃん」
成美「とにかくお前らは俺の後ろを守れ! 絶対に誰にもパンツを見られるな!」
 和真、尚人、瑞希、顔を見合わせて、
和真「…付き合ってあげる? このままじゃいつまで経っても家に着かないし」
尚人「そうしようか」
瑞希「でも何か隠してるっぽい振る舞いはマズない?」
和真「確かにそうだね…」
瑞希「成美、ケツは我慢してもらうで」
成美「おい、何でそうなるんだよ!」
尚人「(申し訳なさそうな顔で)今はそれより隠さなあかんものがあるから…」
和真「成美だって時には庇ってもらってるでしょ」
成美「そうだけどよ…」
 一同、歩き出す。成美は両手で尻を覆っている。
成美「正々堂々と生きたかったぜ…」
和真「下着のことは正々堂々としたらいいんじゃないかな。余計に目立つし、それ」
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