我が小さなきょうだいよ
【怯える子の第一歩よ】
ひん、と泣きそうな声をあげてテスカトリポカの足にしがみつく、小さな命がいた。
サモナーである。
てしゅか、てしゅか、とテスカトリポカの後をついて歩く幼いサモナーは、知らない相手に会うたびにテスカトリポカの陰に隠れた。
絶賛、人見知り中なのである。
「おチビくん、こんにちは。怖くないからな?」
軍医であるシンノウが話しかけても
「てしゅか……たしけて……」
泣きそうな表情で幼子が返すので、それ以上の接近は躊躇われた。怖がらせたくて話しかけているのではない。無理強いは……良くない。
いや、いや、と怯えてテスカトリポカにしがみつく小さな小さなサモナーの前に、祖父がいた。
バロールである。
テスカトリポカが一目会わせてやろうと、バロールのもとにサモナーを連れて行ったのだ。だが、それが上手くいかなかった。小さな小さなサモナーは、バロールを怖がったのか、警戒したのか、テスカトリポカにべったりとくっつき、離れたがらなくなったのだ。
「……あー、その、何だ」
バロールが気まずそうに声を出す。
たったそれだけでサモナーが泣きそうになる。
「俺は、貴様……いや、可愛い可愛い孫の、爺ちゃんだぞ? ん?」
テスカトリポカが少し笑う。そのくらいには、今のバロールは猫なで声だった。孫である幼子を怖がらせまいと笑顔を作る。とは言っても、そこそこ迫力のある笑顔だったが。
「てしゅか……たしけて……」
「大丈夫だよ、きょうだい。彼は君のおじいちゃんだとも。悪いようにはされんよ、保証しよう」
「てしゅかじゃないといやぁなのぉ」
テスカトリポカの両足の間に挟まり、バロールに背を向けている幼いサモナー。
外見から察するに二歳か三歳だろう小さなサモナーに無理をさせるわけにもいかない。バロールとて、孫に無理やり笑って欲しいわけではない。
だが、言わねばならない。
バロールは、テスカトリポカに言わねばならないことがあった。
「俺の真の敵は、貴様だったか」
「こんな事で同盟解消しないだろうね!?」
テスカトリポカのツッコミが響き渡った。
幼いサモナーは未だにテスカトリポカの足の間にいた。
「爺ちゃんはな……あー、じーじはな」
こちらを向かない幼子に、一生懸命、優しく語りかけるバロールの姿がある。
緊張で話もできないのだろうサモナーに、無理に話させることはせずに、バロールの方から語りかけているのだ。サモナーは、バロールの声に包まれるように、その場に大人しく座っている。
「じーじは、貴様……じゃあ、ねぇな。……孫に会えて、嬉しかったぞ。今度来る時は、お菓子を用意しとこうじゃねえか。な?」
何のお菓子が食いたいんだ?
甘い甘い、バロールの声。
サモナーはチラリと背後に目を向けた。知らないおじいちゃんが、優しい声を出している背後を。
相変わらず顔はやや怖いが、テスカトリポカは「大丈夫」と言っていた。それが、小さな勇気に火をつけたらしい。
「……あぱまんこちょ」
サモナーの小さな声が、バロールの耳に届いた。目を見開くバロールが、サモナーをまじまじと見つめる。あぱまんこちょ?
同盟者であるジャガーの方を見たバロールが、
「おい、テスカトリポカ」
とだけ言うのに
「アン○ンマンチョコって言ったのだよ」
呼びかけの意味を察したジャガーが返した。
流石は同盟を結んだ悪友だけあるか。
バロールは続けて言った。
「その、アンパン○ンチョコっつぅのは、どこで売ってやがるんだ?」
「スーパーにドラッグストアに、けっこうどこでも売っているのではないかね?」
「段ボール一箱注文するが構わねえな?」
「構う構う構う。まさかいっぺんに食べさせるつもりじゃあるまいね、君ィ? 駄目だぞう? きょうだいの体に悪いじゃないかね」
○ンパンマンチョコを巡る大人の攻防。
それを見ていたサモナーが、不思議そうな顔をしていた。それはそうだろう。
よちよちと歩いて来るサモナーを、バロールは黙って見守る。まだバロールのことが少し怖いのだろう。恐る恐るだ。
やがて幼いその子は、胡座をかいているバロールの近くにやって来た。
そうして
小さな手で
バロールの足に、ちょこん、と触れた。
「……あぱまんこちょ、たびるぅ」
バロールは、黙り込んだ。
あまりにも小さな命が、一生懸命近づいてきたことに、感動を覚えていたからだ。可愛い可愛い、大切な孫が……英雄である前に、一人の肉親である孫が、コンタクトを取ってくれたからだ。
「……ちびすけ……名前は、何て言うんだ?」
言えるか? じーじに、教えちゃくれねえか?
そっと優しく訊ねる妖精の王。
幼いサモナーは、もじもじと体を動かしたあとに、バロールのズボンをキュッと握った。
「……しゃも」
「そう、サモと呼ばれているのだよね、きょうだいは? よく言えたね、偉いぞう、きょうだい」
テスカトリポカが、サモナーの頭を撫でる。いひぃ、と喜ぶサモナーが、バロールの目に映る。
「……やっぱ、アンパ○マンチョコ一箱買うわ」
「駄ぁ目だったら! 山程与えるんじゃないよ!」
テスカトリポカのツッコミが、再び響く。
サモナーの人見知りが、少しだけ……ほんの、ほんの少しだけ、改善された、ような気がした。……そんな出来事である。
ひん、と泣きそうな声をあげてテスカトリポカの足にしがみつく、小さな命がいた。
サモナーである。
てしゅか、てしゅか、とテスカトリポカの後をついて歩く幼いサモナーは、知らない相手に会うたびにテスカトリポカの陰に隠れた。
絶賛、人見知り中なのである。
「おチビくん、こんにちは。怖くないからな?」
軍医であるシンノウが話しかけても
「てしゅか……たしけて……」
泣きそうな表情で幼子が返すので、それ以上の接近は躊躇われた。怖がらせたくて話しかけているのではない。無理強いは……良くない。
いや、いや、と怯えてテスカトリポカにしがみつく小さな小さなサモナーの前に、祖父がいた。
バロールである。
テスカトリポカが一目会わせてやろうと、バロールのもとにサモナーを連れて行ったのだ。だが、それが上手くいかなかった。小さな小さなサモナーは、バロールを怖がったのか、警戒したのか、テスカトリポカにべったりとくっつき、離れたがらなくなったのだ。
「……あー、その、何だ」
バロールが気まずそうに声を出す。
たったそれだけでサモナーが泣きそうになる。
「俺は、貴様……いや、可愛い可愛い孫の、爺ちゃんだぞ? ん?」
テスカトリポカが少し笑う。そのくらいには、今のバロールは猫なで声だった。孫である幼子を怖がらせまいと笑顔を作る。とは言っても、そこそこ迫力のある笑顔だったが。
「てしゅか……たしけて……」
「大丈夫だよ、きょうだい。彼は君のおじいちゃんだとも。悪いようにはされんよ、保証しよう」
「てしゅかじゃないといやぁなのぉ」
テスカトリポカの両足の間に挟まり、バロールに背を向けている幼いサモナー。
外見から察するに二歳か三歳だろう小さなサモナーに無理をさせるわけにもいかない。バロールとて、孫に無理やり笑って欲しいわけではない。
だが、言わねばならない。
バロールは、テスカトリポカに言わねばならないことがあった。
「俺の真の敵は、貴様だったか」
「こんな事で同盟解消しないだろうね!?」
テスカトリポカのツッコミが響き渡った。
幼いサモナーは未だにテスカトリポカの足の間にいた。
「爺ちゃんはな……あー、じーじはな」
こちらを向かない幼子に、一生懸命、優しく語りかけるバロールの姿がある。
緊張で話もできないのだろうサモナーに、無理に話させることはせずに、バロールの方から語りかけているのだ。サモナーは、バロールの声に包まれるように、その場に大人しく座っている。
「じーじは、貴様……じゃあ、ねぇな。……孫に会えて、嬉しかったぞ。今度来る時は、お菓子を用意しとこうじゃねえか。な?」
何のお菓子が食いたいんだ?
甘い甘い、バロールの声。
サモナーはチラリと背後に目を向けた。知らないおじいちゃんが、優しい声を出している背後を。
相変わらず顔はやや怖いが、テスカトリポカは「大丈夫」と言っていた。それが、小さな勇気に火をつけたらしい。
「……あぱまんこちょ」
サモナーの小さな声が、バロールの耳に届いた。目を見開くバロールが、サモナーをまじまじと見つめる。あぱまんこちょ?
同盟者であるジャガーの方を見たバロールが、
「おい、テスカトリポカ」
とだけ言うのに
「アン○ンマンチョコって言ったのだよ」
呼びかけの意味を察したジャガーが返した。
流石は同盟を結んだ悪友だけあるか。
バロールは続けて言った。
「その、アンパン○ンチョコっつぅのは、どこで売ってやがるんだ?」
「スーパーにドラッグストアに、けっこうどこでも売っているのではないかね?」
「段ボール一箱注文するが構わねえな?」
「構う構う構う。まさかいっぺんに食べさせるつもりじゃあるまいね、君ィ? 駄目だぞう? きょうだいの体に悪いじゃないかね」
○ンパンマンチョコを巡る大人の攻防。
それを見ていたサモナーが、不思議そうな顔をしていた。それはそうだろう。
よちよちと歩いて来るサモナーを、バロールは黙って見守る。まだバロールのことが少し怖いのだろう。恐る恐るだ。
やがて幼いその子は、胡座をかいているバロールの近くにやって来た。
そうして
小さな手で
バロールの足に、ちょこん、と触れた。
「……あぱまんこちょ、たびるぅ」
バロールは、黙り込んだ。
あまりにも小さな命が、一生懸命近づいてきたことに、感動を覚えていたからだ。可愛い可愛い、大切な孫が……英雄である前に、一人の肉親である孫が、コンタクトを取ってくれたからだ。
「……ちびすけ……名前は、何て言うんだ?」
言えるか? じーじに、教えちゃくれねえか?
そっと優しく訊ねる妖精の王。
幼いサモナーは、もじもじと体を動かしたあとに、バロールのズボンをキュッと握った。
「……しゃも」
「そう、サモと呼ばれているのだよね、きょうだいは? よく言えたね、偉いぞう、きょうだい」
テスカトリポカが、サモナーの頭を撫でる。いひぃ、と喜ぶサモナーが、バロールの目に映る。
「……やっぱ、アンパ○マンチョコ一箱買うわ」
「駄ぁ目だったら! 山程与えるんじゃないよ!」
テスカトリポカのツッコミが、再び響く。
サモナーの人見知りが、少しだけ……ほんの、ほんの少しだけ、改善された、ような気がした。……そんな出来事である。
