僕らは勝負をしている
ケツァルコアトルとテスカトリポカは対等である。
そのはずだ。
なのに何故。
ケツァルコアトルは納得ができなかった。
最近、テスカトリポカに夜の方でのリードをされすぎている。
そんな話を聞かせるんじゃない、と外野からヤジが飛びそうな話だが、ケツァルコアトルにとっては深刻な問題だった。
対等ならば夜の方も五分五分なはずだ。
なのに何故、自分はテスカトリポカに組み敷かれてばかりなのだ。まったくもって納得がいかない。
ケツァルは決意した。こうなったら自分がリードしてやろうじゃないか、と。いきなり夜のお誘いをするのも不躾であるから、日常生活から少しずつリードしていって、自分を優位にしてやろう、と。
下らない目論みだと笑ってくれることなかれ。
ケツァルコアトルは真剣だった。
まずは仕事をしているテスカトリポカに休憩でもすすめてみようか。と、リビングに行ってみれば、彼は不在だった。ノートパソコンはスリープモード。そう遠くには行っていないようだ。
きょろきょろと見回していると、キッチンから出てきたテスカトリポカと目があった。
「君も飲むかね、コーヒー?」
「ああ、うん……いや待て」
ごく自然にコーヒーを入れられそうになり、はっと我に返ったケツァルコアトルは踏みとどまる。
ぬるめのコーヒーを口にしている半身を見据えて、自分にできそうなことは何もない、と判断した羽毛ある蛇は、落胆しながら言った。
「……自分で入れる」
「分かった」
おのれ。
昼は二人で食事に出ることにした。
ここで「俺が払ってやる」とでも言って対等ポイントを稼ぎたいところだ。
何だ、対等ポイントとは。
入った料理屋は上等な素材を上等に調理して出しており、現在、東京で大学生をしているケツァルコアトルの財布に厳しい店だったが、ここで払わねば俺の気が済まない、とテスカトリポカに宣言し、会計することにした。
「食事程度に無理をするものではないぞう、きょうだい」
横からスッとカードを出されて、敗北を悟った。
おのれ……!
ならば買い物に行こう、とテスカトリポカを連れ回した。
なにか奢ってやらねば本当の本当に気が済まない。
服でも靴でもほしいものを言ってみろ、とまるで威嚇するかのような勇ましさでテスカトリポカに尋ねるケツァルコアトルである。
テスカトリポカは、ふむ、と短く返したあと、ケツァルの手をとって、面白そうに返したのだった。
「君の百面相を見られただけで充分なのだがね? 私は」
おのれおのれおのれ。
ならば、とホテルに泊まることにした。
ただのビジネスホテルだが……。
そういう、露骨なホテルに行く勇気はあまりなかった。こうまで空回りしたあとにラブホテルなんかに行けば、ああ、リードしたかったんだね、とバレてしまうだろうことは請け合いだ。
そうしたら、笑われるだろうか。
それとも、からかわれるだろうか。
テスカトリポカはケツァルコアトルを決して馬鹿にしないだろうが、それでも……微笑ましい努力じゃないかね、君ィ。なんて言われたら、たぶんケツァツコアトルはブチ切れてテスカトリポカに殴りかかる。間違いない。
ベッドに横たわってむすっとした表情のまま、ケツァルは虚空を睨んでいた。
「きょうだい」
声をかけてきたのはテスカトリポカのほうだった。
「なんだね。今ちょっと不機嫌なんだが」
「不機嫌なのは分かっているとも。今日はやたらと空回っていたからね、君」
「ぬう」
俺がやる、俺が払う、俺が買う。
俺が、俺が、俺が。
まるで手伝いがしたくてたまらない子供のように、俺俺と主張しすぎていた。指摘されてやや顔を赤くするケツァルに、テスカトリポカは言う。
「これは何の勝負なのだね?」
勝負であることには気づいていたらしい。ただ、何の勝負なのかは分からないときた。ケツァルコアトルは内心、負けが続いて嫌になってきた気分で、テスカトリポカに答えた。
「お前と……対等でいたい」
「ふむ?」
「だから、やってもらってばっかりなのは、気に食わんのだよ、きょうだい! 俺だって何かしてやりたいじゃないか! 対等なんだったら!」
ケツァルコアトルが、ベッドから降りて立ち上がる。
そうして、隣のベッドに腰かけていたテスカトリポカを、力任せに押し倒す。全体重をかけて、抵抗できないよう肩を押さえて、ケツァルコアトルは彼を睨むように見据えていた。
「ケツァ……んん」
何かを言おうと口を開いたテスカトリポカの口内に、自身の舌をねじ込んで黙らせる。熱烈なキスをして、今お前を組み敷いているのは俺なのだと印象づけて、それから……。
それから……。
テスカトリポカの服を脱がしてやろうかと手を掛けたところで
「君にできるのかね?」
こちらをまっすぐ見て、挑発的に笑んでいるテスカトリポカに、そう言われた。
「……やってやるとも」
喧嘩を買うように、羽毛ある蛇が答える。
マウントポジションをとったエルドラドの追放者が、代行者の服のボタンを外して、それから……首筋に柔く噛みつく。
「上に乗って甘えるだけなら、仔犬でもできるぞう、きょうだい?」
「馬鹿にするなよ、我が半身。すぐに泣かせてやる」
「フハハハ……では、意地の張り合いといこうか、ケツァルコアトルよ!」
余裕綽々で喧嘩を売ってくるその様が腹立たしくて、ケツァルコアトルはテスカトリポカに乱暴なキスをした。
どちらがリードしたところで、勝負になっていないことに変わりはない。
そのはずだ。
なのに何故。
ケツァルコアトルは納得ができなかった。
最近、テスカトリポカに夜の方でのリードをされすぎている。
そんな話を聞かせるんじゃない、と外野からヤジが飛びそうな話だが、ケツァルコアトルにとっては深刻な問題だった。
対等ならば夜の方も五分五分なはずだ。
なのに何故、自分はテスカトリポカに組み敷かれてばかりなのだ。まったくもって納得がいかない。
ケツァルは決意した。こうなったら自分がリードしてやろうじゃないか、と。いきなり夜のお誘いをするのも不躾であるから、日常生活から少しずつリードしていって、自分を優位にしてやろう、と。
下らない目論みだと笑ってくれることなかれ。
ケツァルコアトルは真剣だった。
まずは仕事をしているテスカトリポカに休憩でもすすめてみようか。と、リビングに行ってみれば、彼は不在だった。ノートパソコンはスリープモード。そう遠くには行っていないようだ。
きょろきょろと見回していると、キッチンから出てきたテスカトリポカと目があった。
「君も飲むかね、コーヒー?」
「ああ、うん……いや待て」
ごく自然にコーヒーを入れられそうになり、はっと我に返ったケツァルコアトルは踏みとどまる。
ぬるめのコーヒーを口にしている半身を見据えて、自分にできそうなことは何もない、と判断した羽毛ある蛇は、落胆しながら言った。
「……自分で入れる」
「分かった」
おのれ。
昼は二人で食事に出ることにした。
ここで「俺が払ってやる」とでも言って対等ポイントを稼ぎたいところだ。
何だ、対等ポイントとは。
入った料理屋は上等な素材を上等に調理して出しており、現在、東京で大学生をしているケツァルコアトルの財布に厳しい店だったが、ここで払わねば俺の気が済まない、とテスカトリポカに宣言し、会計することにした。
「食事程度に無理をするものではないぞう、きょうだい」
横からスッとカードを出されて、敗北を悟った。
おのれ……!
ならば買い物に行こう、とテスカトリポカを連れ回した。
なにか奢ってやらねば本当の本当に気が済まない。
服でも靴でもほしいものを言ってみろ、とまるで威嚇するかのような勇ましさでテスカトリポカに尋ねるケツァルコアトルである。
テスカトリポカは、ふむ、と短く返したあと、ケツァルの手をとって、面白そうに返したのだった。
「君の百面相を見られただけで充分なのだがね? 私は」
おのれおのれおのれ。
ならば、とホテルに泊まることにした。
ただのビジネスホテルだが……。
そういう、露骨なホテルに行く勇気はあまりなかった。こうまで空回りしたあとにラブホテルなんかに行けば、ああ、リードしたかったんだね、とバレてしまうだろうことは請け合いだ。
そうしたら、笑われるだろうか。
それとも、からかわれるだろうか。
テスカトリポカはケツァルコアトルを決して馬鹿にしないだろうが、それでも……微笑ましい努力じゃないかね、君ィ。なんて言われたら、たぶんケツァツコアトルはブチ切れてテスカトリポカに殴りかかる。間違いない。
ベッドに横たわってむすっとした表情のまま、ケツァルは虚空を睨んでいた。
「きょうだい」
声をかけてきたのはテスカトリポカのほうだった。
「なんだね。今ちょっと不機嫌なんだが」
「不機嫌なのは分かっているとも。今日はやたらと空回っていたからね、君」
「ぬう」
俺がやる、俺が払う、俺が買う。
俺が、俺が、俺が。
まるで手伝いがしたくてたまらない子供のように、俺俺と主張しすぎていた。指摘されてやや顔を赤くするケツァルに、テスカトリポカは言う。
「これは何の勝負なのだね?」
勝負であることには気づいていたらしい。ただ、何の勝負なのかは分からないときた。ケツァルコアトルは内心、負けが続いて嫌になってきた気分で、テスカトリポカに答えた。
「お前と……対等でいたい」
「ふむ?」
「だから、やってもらってばっかりなのは、気に食わんのだよ、きょうだい! 俺だって何かしてやりたいじゃないか! 対等なんだったら!」
ケツァルコアトルが、ベッドから降りて立ち上がる。
そうして、隣のベッドに腰かけていたテスカトリポカを、力任せに押し倒す。全体重をかけて、抵抗できないよう肩を押さえて、ケツァルコアトルは彼を睨むように見据えていた。
「ケツァ……んん」
何かを言おうと口を開いたテスカトリポカの口内に、自身の舌をねじ込んで黙らせる。熱烈なキスをして、今お前を組み敷いているのは俺なのだと印象づけて、それから……。
それから……。
テスカトリポカの服を脱がしてやろうかと手を掛けたところで
「君にできるのかね?」
こちらをまっすぐ見て、挑発的に笑んでいるテスカトリポカに、そう言われた。
「……やってやるとも」
喧嘩を買うように、羽毛ある蛇が答える。
マウントポジションをとったエルドラドの追放者が、代行者の服のボタンを外して、それから……首筋に柔く噛みつく。
「上に乗って甘えるだけなら、仔犬でもできるぞう、きょうだい?」
「馬鹿にするなよ、我が半身。すぐに泣かせてやる」
「フハハハ……では、意地の張り合いといこうか、ケツァルコアトルよ!」
余裕綽々で喧嘩を売ってくるその様が腹立たしくて、ケツァルコアトルはテスカトリポカに乱暴なキスをした。
どちらがリードしたところで、勝負になっていないことに変わりはない。
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