ルート3の僕ら
「ケツァル、ケツァル、至近距離にぶら下げないでくれまいか、見えない」
「もっとよく見ろ」
「だから見えないんだってば」
ケツァルコアトルがつまんで、テスカトリポカの眼前に突き出したそれは、黒い猫のマスコットキーホルダーだった。
「どうしたのだね、それ」
黒猫のマスコットキーホルダーを眺めながら、テスカトリポカが問いかける。ケツァルコアトルは幾分か得意げに鼻を鳴らし、キーホルダーを揺らしてみせた。
「ゲーセンでとった。良いだろう?」
「またなんでそれを取ってきたのだよ」
「黒猫は幸運のシンボルとされているからな」
上機嫌な様子でキーホルダーを見せつけてくる片割れに、エルドラドの世界代行者は、分かった分かった、と返していた。
「で? いくらで獲得したのだね?」
「……」
「ケツァル?」
テスカトリポカからの質問に、ケツァルコアトルは微妙な笑みを浮かべ、黙り込む。
まるで絵画に見られるアルカイックスマイルだ。
そんな曖昧なほほ笑みともつかない表情に、怪訝そうなテスカトリポカが口を開いた。
「怒らないから言ってごらん」
「二千コイン」
「は? 高……」
「怒らないって言ったのはお前だろう? 発言の責任を取って怒るのをやめ給えよ?」
黒い世界代行者に、白い竜蛇が畳み掛けた。
一回、二百コインするクレーンゲームがあったという。黒猫のキーホルダーはゲーム機の片隅に鎮座しており、それを獲るのに十回は挑戦したらしい。そんな話を聞いて、テスカトリポカは小さく息を吐き出していた。
ケツァルコアトルは欲しかったら手に入れる男だ、と、今更ながら思い出したのだろうか。
「随分と高級なキーホルダーじゃあないかね」
じっとりとした視線を向けてくる片割れに、ケツァルコアトルが勝ち気な表情になる。
「お前のぬいぐるみボディより格安だと思うが」
それはそうなんだけど。
どこで張り合っているのだ。
テスカトリポカは呆れたように笑った。
ケツァルコアトルは勝利を確信したのか、得意げに笑っていた。
「今日からこの人形はテスカトリポ子ちゃんだ」
黒猫のマスコットキーホルダーを掲げてケツァルコアトルが宣言する。ええ……と少し嫌そうなテスカトリポカが、片割れに声を上げた。
「ややこしいし、メスなのかね、それ」
「お前の妹」
「いらんよ」
ずい、とテスカトリポカの目の前に突き出されるテスカトリポ子ちゃん。そしてケツァルコアトルの裏声が、家に響いた。
「オニイチャン」
「寸劇が始まった」
「トリポ子、お小遣い欲しいなぁ?」
「ケツァル、ケツァル、裏声がムカつく」
「ふははは!」
マスコットキーホルダーを下げて笑い出すケツァルコアトルに、テスカトリポカがあのねぇ、と苦言を呈しようとしたのだが、ケツァルコアトルは片割れに尻尾を巻き付けて、いいだろ? なあ? と小遣いをたかり始めたので、ジャガー獣人による苦言はどこかへ放り投げられてしまった。
「白い蛇のマスコットが別にあったのだよ。どうせなら揃えたいと思わないかね?」
「……いくら?」
「一回、五百コイン」
君って奴は。とテスカトリポカが再びじっとりとした視線をケツァルコアトルへ向ける。
ケツァルコアトルはお構いなしだ。
「大切な片割れにクレーンゲーム代を奢ってくれまいかね?」
「大切は大切だが、君ねえ……浪費も人並みにしておき給えよ」
「そういうのは人並みに奢ってくれてから言い給え、ルート3、ルート3」
「……人並に奢れや?」
「それ」
「それ、じゃあないよ」
ケラケラと笑う竜蛇に、世界代行者が困り果て、最後の最後に財布を取り出した。
この勝負、竜蛇の勝ちである。
「もっとよく見ろ」
「だから見えないんだってば」
ケツァルコアトルがつまんで、テスカトリポカの眼前に突き出したそれは、黒い猫のマスコットキーホルダーだった。
「どうしたのだね、それ」
黒猫のマスコットキーホルダーを眺めながら、テスカトリポカが問いかける。ケツァルコアトルは幾分か得意げに鼻を鳴らし、キーホルダーを揺らしてみせた。
「ゲーセンでとった。良いだろう?」
「またなんでそれを取ってきたのだよ」
「黒猫は幸運のシンボルとされているからな」
上機嫌な様子でキーホルダーを見せつけてくる片割れに、エルドラドの世界代行者は、分かった分かった、と返していた。
「で? いくらで獲得したのだね?」
「……」
「ケツァル?」
テスカトリポカからの質問に、ケツァルコアトルは微妙な笑みを浮かべ、黙り込む。
まるで絵画に見られるアルカイックスマイルだ。
そんな曖昧なほほ笑みともつかない表情に、怪訝そうなテスカトリポカが口を開いた。
「怒らないから言ってごらん」
「二千コイン」
「は? 高……」
「怒らないって言ったのはお前だろう? 発言の責任を取って怒るのをやめ給えよ?」
黒い世界代行者に、白い竜蛇が畳み掛けた。
一回、二百コインするクレーンゲームがあったという。黒猫のキーホルダーはゲーム機の片隅に鎮座しており、それを獲るのに十回は挑戦したらしい。そんな話を聞いて、テスカトリポカは小さく息を吐き出していた。
ケツァルコアトルは欲しかったら手に入れる男だ、と、今更ながら思い出したのだろうか。
「随分と高級なキーホルダーじゃあないかね」
じっとりとした視線を向けてくる片割れに、ケツァルコアトルが勝ち気な表情になる。
「お前のぬいぐるみボディより格安だと思うが」
それはそうなんだけど。
どこで張り合っているのだ。
テスカトリポカは呆れたように笑った。
ケツァルコアトルは勝利を確信したのか、得意げに笑っていた。
「今日からこの人形はテスカトリポ子ちゃんだ」
黒猫のマスコットキーホルダーを掲げてケツァルコアトルが宣言する。ええ……と少し嫌そうなテスカトリポカが、片割れに声を上げた。
「ややこしいし、メスなのかね、それ」
「お前の妹」
「いらんよ」
ずい、とテスカトリポカの目の前に突き出されるテスカトリポ子ちゃん。そしてケツァルコアトルの裏声が、家に響いた。
「オニイチャン」
「寸劇が始まった」
「トリポ子、お小遣い欲しいなぁ?」
「ケツァル、ケツァル、裏声がムカつく」
「ふははは!」
マスコットキーホルダーを下げて笑い出すケツァルコアトルに、テスカトリポカがあのねぇ、と苦言を呈しようとしたのだが、ケツァルコアトルは片割れに尻尾を巻き付けて、いいだろ? なあ? と小遣いをたかり始めたので、ジャガー獣人による苦言はどこかへ放り投げられてしまった。
「白い蛇のマスコットが別にあったのだよ。どうせなら揃えたいと思わないかね?」
「……いくら?」
「一回、五百コイン」
君って奴は。とテスカトリポカが再びじっとりとした視線をケツァルコアトルへ向ける。
ケツァルコアトルはお構いなしだ。
「大切な片割れにクレーンゲーム代を奢ってくれまいかね?」
「大切は大切だが、君ねえ……浪費も人並みにしておき給えよ」
「そういうのは人並みに奢ってくれてから言い給え、ルート3、ルート3」
「……人並に奢れや?」
「それ」
「それ、じゃあないよ」
ケラケラと笑う竜蛇に、世界代行者が困り果て、最後の最後に財布を取り出した。
この勝負、竜蛇の勝ちである。
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