何度か焼け焦げて

 学園軍獄のグラウンドの隅では、ジャイアントたちが縮こまっていた。ひりつく殺気を隠しもせずに、エルドラドの主神二名が対峙しているからだ。
 二名。
 テスカトリポカと、ケツァルコアトルが。
「毎度毎度よく飽きないよな」
 呆れた調子で二人を評するのはサモナーである。神宿学園の高校生は、東京屈指の「大人げない大人による盛大なきょうだい喧嘩」を眺めているのだった。

 先程から何度も地面は抉れ、建物は半壊し、テスカトリポカは焼かれ、ケツァルコアトルは消し飛ばされている。

 アプリバトルなので終われば時間は巻き戻り、なかったことになる。そうすると二人は再びアプリを起動して、アプリバトルをやり直す。
 何度も何度も何度も何度も、殺気が溢れ出るどつきあいを繰り返し、その度に吠えて叫んで怒鳴って罵って、どちらかが勝ち、どちらかが負ける。
 勝敗がついたら再戦して、またどちらかが勝ち、どちらかが負ける。延々と繰り返し、これで七戦目だった。
 あまりの気迫と尽きない殺意に、ジャイアントたちもそれは縮こまるというもの。
 テスカトリポカとケツァルコアトルの大喧嘩に、学園軍獄が恐れおののいていた。

「俺は負けてないからなぁ!!」
 ケツァルコアトルがガラガラの喉で叫ぶ。肩で息をしながら、目の前のテスカトリポカを睨みつけていた。
「いいや! 君の負けだとも、きょうだい!! 私の一発が入ったろう!?」
 テスカトリポカが喉の奥で唸る。歯を食いしばって、尻尾の先まで気力を振り絞り、ケツァルコアトルを睨み返していた。
「なら一〇〇発入れ返すだけだ!」
 負けず嫌いが吠える。
「では私は一〇一発入れることにしよう!」
 意地っ張りが声を荒らげる。
 バチバチと火花が散る言い争いである。
 車はひしゃげ、地面は凹み、お互いの体から血が流れている。
 それでも敵意と殺意を衰えさせない二人は、今にも互いに飛びかかりそうな雰囲気だ。

「いい加減にしなさい」

 そこに割って入る声があった。
 二人の気迫に気圧されない希少な存在が、領域外から声をかけていた。サモナーだ。
「創世神二人が互角の力でバチバチにやり合うもんだから、周りの人たちみんな怯えてるんだよ。大人なんだからもう少し人の迷惑を考えろ」
 ぐ……と声に詰まる二人が、揃ってサモナーのほうを見た。両腕を組んでいる高校生が、不満げにこちらを見ていた。
「しかし……ケツァルコアトルがいけないのだよ」
「あっ。お前この……テスカトリポカだってあそこで意地を張らなければ良かったじゃないかね!」
「君が意地を張るなら私も意地を張るとも! 私は鏡なのだから! そんなことも忘れたのかね?」
「はあああああ? おっ前……上等じゃないか、もう一戦するか? おお?」
「だからやめろと言っている」
 ため息混じりに苦言を呈するサモナーに、テスカトリポカもケツァルコアトルも気まずそうに視線をそらす。だってこいつが、とお互いを指さしそうになり、やめた。
 アプリを切る。
 時間が巻き戻る。
 凄惨な光景は鳴りを潜め、元のきれいなグラウンドへと変わり、ジャイアントたちは縮こまったままだった。どうやらサモナーがたった一人で仲裁しなければならないようである。
「ケツァルコアトルが本気で怒りすぎな気がするんだけど」
 サモナーがケツァルのほうを見て、指さしながら指摘する。何度テスカトリポカを焼いたか。何度その熱波で建物の窓ガラスを粉々にしたか。
「今回だってケツァルが怒り出して、テスカがそれに怒り返したから起きたんだろ? つまりケツァルがもう少し我慢すればよかったんじゃないの?」
「それは……うん……」
 サモナーからの指摘に、ケツァルコアトルは不満そうに押し黙った。テスカトリポカはやられたらやり返す性質を持っているので、ケツァルコアトルが先にアクションを取らない限り、表向きは平和でいられるはずなのだ。

「その理屈はおかしくないかね」

 ケツァルコアトルを庇い立てするジャガーが、サモナーの話に割って入った。冷静な声音で、サモナーをしっかりと見据えている。
「確かにケツァルが先に怒りはしたがね……そのケツァルを煽ったのは軍獄の兵士だよ。まあ、事実を言ったまでなのだが」
「それに過剰に怒ったのが問題なんだよ」
「人には自分でも制御すること叶わぬ怒りのツボというものがあるのだよ、サモナー。……ケツァルの怒りのツボはいささか多いと言わざるを得ないが、言わなくていいことをこちらが言ったのもまた事実だろう?」
 それにね、とテスカトリポカが腕組みをする。
 小さく息をついて、ケツァルコアトルを横目で見ながら彼は言う。
「我々は対等なのだ。責任の所在も対等でなければ、私は我慢ならんよ」
「テスカトリポカ……さっきは俺に責任を押し付けようとしてたくせに」
「それは君とて同じことだろう、ケツァルコアトル」
 ひりつく殺気はどこへやら。
 お互いに苦笑しながら談笑している二人に、サモナーを除いた周囲が呆気にとられていた。
 戦いが終わったらそれきりだ。根に持たない。
 だいたいそうして生きてきたのだろう二人は、七度も行われた小さな……そう、テスカトリポカとケツァルコアトルから見たら、ほんの小さな喧嘩に終わりを告げたのだ。
「ケツァルコアトルの火力が衰えていないようで安心したのだよ」
「お前こそ嫌なタイミングで神器を放ってくるようになったな。面白いからいいが」
 お互いの健闘を称え合い、勝手に仲直りしている始末である。
「三勝三敗一引き分けか」
 ケツァルコアトルが、ふむ、とサモナーに中断させられた七回目の喧嘩も含めて言う。
「私の拳が一発多く入っていたから最後も私の勝ちでいいんじゃないかね」
 テスカトリポカが余計なことを指摘した。
「あ?」
 ケツァルコアトルが短気を起こし。
「お気に召さなかったかね?」
 テスカトリポカがニヤリと笑う。

 あちゃあ、とサモナーが天を仰いだ。
1/2ページ
拍手