一勝一敗一引き分け
「じゃんけんで決まったじゃないかね!!」
「うるっさい! もう一回勝負だ!!」
うるっさいのは二人の方なのだが。
朝っぱらから練馬の住宅街に言い争いの声が響いていた。大音声のせいか小鳥たちが飛び立っていく。近所迷惑甚だしい。
今朝の喧嘩の原因は、じゃんけんで負けた方がコーヒーを淹れるルールに、ケツァルコアトルが異議申し立てをしたことによるものだった。
竜蛇いわく、コーヒーを淹れるのが上手いのはテスカトリポカの方なのだから、じゃんけんなぞという時の運に任せないで淹れてしまえばいい。
黒い太陽いわく、面倒くさがって駄々をこねるのはやめ給え、自力で豆を挽くわけでもあるまいし、土壇場で屁理屈をこねるのはどうかと思う。
両者、一歩も譲らない戦いだ。
飲みたいなら自分で淹れろ。
ある時は争いが夜に始まったこともある。
先に風呂に入るのにふさわしい者はどちらか、という、至極どうでもいい内容だった。
竜蛇いわく、自分は大学とアルバイトで疲れ果てているし、帰宅するまでに汗をかいている。先に風呂に入るべきなのはこちらではないか。
黒い太陽いわく、私だって仕事で疲れているが? 学園軍獄から外に出ていないだろうって? 敷地の外に出なくとも疲れることは疲れますぅ。
熾烈を極める言い合いだ。
二人で入れ、それなら。
暑い日などは喧嘩も激化する。
クーラーが効いた部屋で……そう、クーラーが効いているはずの部屋で、扇風機の奪い合いを、非常に真剣な面持ちでしていた。
「愛すべき片割れに涼風を分けてやろうとは思わんのかね、テスカトリポカ!」
ああ? やんのかこら、とケツァルコアトルが威嚇混じりに言えば、
「熱を吸収しやすい色の私がバテるやもしれんという発想はないのかね、ケツァルコアトル!」
上等だ、表に出ろ、と言わんばかりにテスカトリポカが喧嘩を買う。
ちなみに表には出ない。暑いので。
ああだこうだと口喧嘩が止まらない二人の仲裁をするべく呼び出されたのが、ショロトルだ。
いい迷惑だ。
「お互い、譲り合ったらどうですか……」
そう提案するショロトルに、ケツァルコアトルとテスカトリポカは難しい顔をするばかり。
譲る? 下手に出るということか?
こいつに?
お互いがお互いを横目で見ながら、非常に分かりやすい表情を作ったので、ショロトルは得も言われぬ脱力感と疲労感を味わうのだった。
「ショロトル、あのな、俺たちは対等なんだよ」
先に口を開いたのはケツァルコアトル。
彼はジャガーの獣人を親指で指して続ける。
「この世のどこに、対等な存在に遠慮をする奴がいるね?」
そこら中におるわ。
「それについては私も賛成だよ」
テスカトリポカが頷いた。頷くな。
「同格であり片割れであるからこそ、譲りたくない気持ちがあるのだよ」
そんな変なところで意気投合しなくていい。
ショロトルは痛くなってきた頭を片手で押さえながら、お互いのことが大切なんでしょう? と訊ねた。二人は同時に口ごもり、視線をそらす。
「譲れとは、もう言いませんけど……少しは優しくしてあげようとは思わないんですか?」
ため息とともに吐き出された問いに、世界代行者と竜蛇が同時に声を荒らげた。
「同輩に手加減をしろと言うのかね!? それは無礼と言わざるを得まいよ!!」
「テスカを侮るつもりも、テスカに侮られるつもりもないぞう、きょうだい!!」
そういう意味で言ったんじゃない……。
本当に頭が痛くなってきたショロトルが、テスカトリポカとケツァルコアトルを遠い目で眺める。
お互いがお互いの特別なのだろう。
だから力の加減ができないのだ。
一には一を、十にほ十を返す対等な存在だからこそ、馬鹿みたいな意地の張り合いをしてしまうし、実際の力関係もイーブンだから、どちらかが折れることもないのだ。
ショロトルは
呆れていた。
「二人だけの世界ですね……」
お互いのことしか見えていない二人が、現在進行系で小競り合いしているのを見ながら。
「うるっさい! もう一回勝負だ!!」
うるっさいのは二人の方なのだが。
朝っぱらから練馬の住宅街に言い争いの声が響いていた。大音声のせいか小鳥たちが飛び立っていく。近所迷惑甚だしい。
今朝の喧嘩の原因は、じゃんけんで負けた方がコーヒーを淹れるルールに、ケツァルコアトルが異議申し立てをしたことによるものだった。
竜蛇いわく、コーヒーを淹れるのが上手いのはテスカトリポカの方なのだから、じゃんけんなぞという時の運に任せないで淹れてしまえばいい。
黒い太陽いわく、面倒くさがって駄々をこねるのはやめ給え、自力で豆を挽くわけでもあるまいし、土壇場で屁理屈をこねるのはどうかと思う。
両者、一歩も譲らない戦いだ。
飲みたいなら自分で淹れろ。
ある時は争いが夜に始まったこともある。
先に風呂に入るのにふさわしい者はどちらか、という、至極どうでもいい内容だった。
竜蛇いわく、自分は大学とアルバイトで疲れ果てているし、帰宅するまでに汗をかいている。先に風呂に入るべきなのはこちらではないか。
黒い太陽いわく、私だって仕事で疲れているが? 学園軍獄から外に出ていないだろうって? 敷地の外に出なくとも疲れることは疲れますぅ。
熾烈を極める言い合いだ。
二人で入れ、それなら。
暑い日などは喧嘩も激化する。
クーラーが効いた部屋で……そう、クーラーが効いているはずの部屋で、扇風機の奪い合いを、非常に真剣な面持ちでしていた。
「愛すべき片割れに涼風を分けてやろうとは思わんのかね、テスカトリポカ!」
ああ? やんのかこら、とケツァルコアトルが威嚇混じりに言えば、
「熱を吸収しやすい色の私がバテるやもしれんという発想はないのかね、ケツァルコアトル!」
上等だ、表に出ろ、と言わんばかりにテスカトリポカが喧嘩を買う。
ちなみに表には出ない。暑いので。
ああだこうだと口喧嘩が止まらない二人の仲裁をするべく呼び出されたのが、ショロトルだ。
いい迷惑だ。
「お互い、譲り合ったらどうですか……」
そう提案するショロトルに、ケツァルコアトルとテスカトリポカは難しい顔をするばかり。
譲る? 下手に出るということか?
こいつに?
お互いがお互いを横目で見ながら、非常に分かりやすい表情を作ったので、ショロトルは得も言われぬ脱力感と疲労感を味わうのだった。
「ショロトル、あのな、俺たちは対等なんだよ」
先に口を開いたのはケツァルコアトル。
彼はジャガーの獣人を親指で指して続ける。
「この世のどこに、対等な存在に遠慮をする奴がいるね?」
そこら中におるわ。
「それについては私も賛成だよ」
テスカトリポカが頷いた。頷くな。
「同格であり片割れであるからこそ、譲りたくない気持ちがあるのだよ」
そんな変なところで意気投合しなくていい。
ショロトルは痛くなってきた頭を片手で押さえながら、お互いのことが大切なんでしょう? と訊ねた。二人は同時に口ごもり、視線をそらす。
「譲れとは、もう言いませんけど……少しは優しくしてあげようとは思わないんですか?」
ため息とともに吐き出された問いに、世界代行者と竜蛇が同時に声を荒らげた。
「同輩に手加減をしろと言うのかね!? それは無礼と言わざるを得まいよ!!」
「テスカを侮るつもりも、テスカに侮られるつもりもないぞう、きょうだい!!」
そういう意味で言ったんじゃない……。
本当に頭が痛くなってきたショロトルが、テスカトリポカとケツァルコアトルを遠い目で眺める。
お互いがお互いの特別なのだろう。
だから力の加減ができないのだ。
一には一を、十にほ十を返す対等な存在だからこそ、馬鹿みたいな意地の張り合いをしてしまうし、実際の力関係もイーブンだから、どちらかが折れることもないのだ。
ショロトルは
呆れていた。
「二人だけの世界ですね……」
お互いのことしか見えていない二人が、現在進行系で小競り合いしているのを見ながら。
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