ちょっと遊ぼうか
ちょっと出ようか
「さて、どうしようかな、きょうだい?」
朝食も兼ねた昼食を平らげて、ケツァルコアトルは目の前の少年に尋ねていた。少年……テスカトリポカは、ふむ、と一言呟いて、しばらく考え込んだあと、ケツァルコアトルへ向かってにこやかな表情を作る。
「せっかくのズル休みだ。満喫せねばもったいないというものだね、きょうだい」
「だろ? 泣いてスッキリしたら、外に行きたくなってきてね!」
仕方ないきょうだいだ。
なんてため息をつく真似をするテスカトリポカも、楽しげである。そういう、面白いことには目ざといのが、このきょうだいなのだ。
「あ」
テスカトリポカが何かを思い出したようにたった一言を口にすれば
「教えろ」
すかさずケツァルコアトルが乗り気で催促をする。
テスカトリポカは少しウケた。自由気ままな竜蛇は、興味が向くと一直線である。
「オンブレティグレの興行を見に行こうか?」
見に行くと約束したからね、と眷属とのやり取りを思い起こしながら言う子供の姿のテスカトリポカ以上に、ケツァルコアトルの表情が少年のように輝いた。
「行く! チケット取れるか、きょうだい!?」
「私の関係者ならチケットなどなくとも見られるが」
「馬鹿だな、きょうだい。こういうのは金を払って見るからこその楽しさがあるんだよ!」
泣いたケツァルがもう笑う。
喜怒哀楽の感情が激しいケツァルコアトルだ。怒ったし、悲しんだし、泣いたし、眠った。あとは喜んで楽しむだけだ。
遊びに行こう。と少年にねだる大学生は、財布の中身を、足りるかな、などと瞳を輝かせながらチェックしていた。
「足らなければ私が出すよ、ケツァルコアトル」
「小学生が何を言ってるんだ。大学生のお・兄・さんに任せとけ!」
「お兄さんをやけに強調するなあ」
「外寒いから上着用意しろよ?」
「フフ、お兄さんぶってるねえ」
エルドラドを出ていく際に自分の痕跡を残さず焼き尽くしたケツァルコアトルと比べれば、テスカトリポカのほうが所持金は多いのだが……。
そんなことはどうでもいいケツァルコアトルだ。
テスカトリポカに優位を取れるなら取っておきたいのだ。泣きじゃくった自分を大人のように慰めたこの半身と、少しでも対等になるためなら、大学生のお兄さんは頑張るのである。
学園軍獄に着くと、ジャイアントたちが走り込みをしているところだった。ヤスヨリが先頭を走り、ペースメーカーの役割を請け負っている。
滞りなく日常が流れているようだ。
むしろテスカトリポカがいない分、起こるトラブルが少なく済んでいる気配すらあった。
「……ん? ……え!? テスカトリポカ最前線指揮官殿!!」
ジャイアントの一人が、こちらを二度見した。
幼い姿のテスカトリポカに向かって、勢いよく敬礼している。他のジャイアントたちもそれに続き、微動だにしなくなった。
「すごいな、ここの奴ら。どんな教育したらこうもピシッとなるんだ、テスカ」
「戦の基本を学ぶには、部隊に倣うが良いのだよ、ケツァルコアトル」
ヤスヨリが呆然とこちらを見てくる。テスカトリポカは手を振る。そして気にせず、ケツァルコアトルの手を引いて、学園軍獄の奥へと進んでいく。
「あら、最前線指揮官、随分とお早い復帰ですね? 義体の修理は終わったのですか?」
一週間も経たないうちに帰ってきたテスカトリポカに、タネトモ参謀がニコリと笑って尋ねてくる。そんな訳はない。直ったのなら子供姿で訪ねてくるわけがない。そんなことはタネトモが一番よく知っている。
「それとも、その幼いお姿でも溜まった執務はこなせると……そう証明してくださるのですか? それはありがとうございます。では早速、執務室へどうぞ?」
「うぬぅ……いや、子供だから難しいことは分からんやもしれんね、タネトモ参謀」
「随分と調子の良いお子様にございますね」
間髪入れず叩き込まれるタネトモの辛辣な言葉に、フハッ、と笑ったのはケツァルコアトルだった。自分との喧嘩以外でたじたじになっているテスカトリポカを見られたのが新鮮だったらしい。
む、と口を尖らせたテスカトリポカが、ケツァルコアトルの手を引いてやや大股で歩き出す。ちょっとご機嫌を損ねたな、と笑うケツァルコアトルに、ジャガーの少年は言った。
「今のは特別に忘れても構わんよ」
「嫌だ。忘れない」
「むう……」
オンブレティグレは学業を終えて、スパーリングをしている最中だった。テスカトリポカが顔を見せるなり、弾けんばかりの笑顔で「スペルエストレージャ!!」と駆け寄ってきて、目線を合わせるために素早くかしずいていた。
興行を見たい、と伝えると、オンブレティグレは喜んで、二人なら関係者席を用意するから、そこで存分に見ていってくれ! と言う。
「どうしても料金を払いたいとケツァルが言うのだよ。とびきり高い席のチケットを譲ってくれまいか?」
「ぐ……テスカトリポカ、大学生の懐事情を分かってないな? 給料日前だからそんなに持ち合わせがないんだよ……」
「フハハ、だから私が出すと言ったのだよ、ケツァル」
ケラケラと笑うテスカトリポカの横顔を、オンブレティグレが眩しそうに微笑んで見つめている。太陽神の幸福を願う眷属の眼差しに、ケツァルコアトルのほうが気づいた。
そして、同じように眩しそうな笑みを、オンブレティグレに向けたのだった。
彼の試合は迫力があった。
悪役にやられそうになり、苦しむ演技も堂に入っている。ケツァルコアトルが夢中で見入っているのを、テスカトリポカが横目で見て、笑う。
オンブレティグレの起死回生の一撃が、悪役に入った! うおー! と盛り上がる観客と共にケツァルコアトルも手を叩いて喜んで、隣に座るテスカトリポカの肩を抱いた。
「テスカ、夕飯はファミレスで済まそう」
試合を見終わったケツァルコアトルはホクホク顔である。祭りみたいだったな、と上機嫌な竜蛇に、テスカトリポカは小さく笑っていた。
「機嫌が直ったようで何よりだよ」
「直ってないぞ、テスカ! お前とのスタンスの違いは悲しいさ! でも、それはそれ、これはこれだ!」
「忙しい男だね、君って奴は」
ケツァルコアトルは少年を抱き上げる。また見に行きたい、と言うケツァルに、テスカは頷いて、それから悪戯っぽく言うのだった。
「次は私が払ってあげよう、ケツァルコアトル。大学生の懐事情を鑑みてね」
「あ! うるさいぞ、きょうだい!」
「さて、どうしようかな、きょうだい?」
朝食も兼ねた昼食を平らげて、ケツァルコアトルは目の前の少年に尋ねていた。少年……テスカトリポカは、ふむ、と一言呟いて、しばらく考え込んだあと、ケツァルコアトルへ向かってにこやかな表情を作る。
「せっかくのズル休みだ。満喫せねばもったいないというものだね、きょうだい」
「だろ? 泣いてスッキリしたら、外に行きたくなってきてね!」
仕方ないきょうだいだ。
なんてため息をつく真似をするテスカトリポカも、楽しげである。そういう、面白いことには目ざといのが、このきょうだいなのだ。
「あ」
テスカトリポカが何かを思い出したようにたった一言を口にすれば
「教えろ」
すかさずケツァルコアトルが乗り気で催促をする。
テスカトリポカは少しウケた。自由気ままな竜蛇は、興味が向くと一直線である。
「オンブレティグレの興行を見に行こうか?」
見に行くと約束したからね、と眷属とのやり取りを思い起こしながら言う子供の姿のテスカトリポカ以上に、ケツァルコアトルの表情が少年のように輝いた。
「行く! チケット取れるか、きょうだい!?」
「私の関係者ならチケットなどなくとも見られるが」
「馬鹿だな、きょうだい。こういうのは金を払って見るからこその楽しさがあるんだよ!」
泣いたケツァルがもう笑う。
喜怒哀楽の感情が激しいケツァルコアトルだ。怒ったし、悲しんだし、泣いたし、眠った。あとは喜んで楽しむだけだ。
遊びに行こう。と少年にねだる大学生は、財布の中身を、足りるかな、などと瞳を輝かせながらチェックしていた。
「足らなければ私が出すよ、ケツァルコアトル」
「小学生が何を言ってるんだ。大学生のお・兄・さんに任せとけ!」
「お兄さんをやけに強調するなあ」
「外寒いから上着用意しろよ?」
「フフ、お兄さんぶってるねえ」
エルドラドを出ていく際に自分の痕跡を残さず焼き尽くしたケツァルコアトルと比べれば、テスカトリポカのほうが所持金は多いのだが……。
そんなことはどうでもいいケツァルコアトルだ。
テスカトリポカに優位を取れるなら取っておきたいのだ。泣きじゃくった自分を大人のように慰めたこの半身と、少しでも対等になるためなら、大学生のお兄さんは頑張るのである。
学園軍獄に着くと、ジャイアントたちが走り込みをしているところだった。ヤスヨリが先頭を走り、ペースメーカーの役割を請け負っている。
滞りなく日常が流れているようだ。
むしろテスカトリポカがいない分、起こるトラブルが少なく済んでいる気配すらあった。
「……ん? ……え!? テスカトリポカ最前線指揮官殿!!」
ジャイアントの一人が、こちらを二度見した。
幼い姿のテスカトリポカに向かって、勢いよく敬礼している。他のジャイアントたちもそれに続き、微動だにしなくなった。
「すごいな、ここの奴ら。どんな教育したらこうもピシッとなるんだ、テスカ」
「戦の基本を学ぶには、部隊に倣うが良いのだよ、ケツァルコアトル」
ヤスヨリが呆然とこちらを見てくる。テスカトリポカは手を振る。そして気にせず、ケツァルコアトルの手を引いて、学園軍獄の奥へと進んでいく。
「あら、最前線指揮官、随分とお早い復帰ですね? 義体の修理は終わったのですか?」
一週間も経たないうちに帰ってきたテスカトリポカに、タネトモ参謀がニコリと笑って尋ねてくる。そんな訳はない。直ったのなら子供姿で訪ねてくるわけがない。そんなことはタネトモが一番よく知っている。
「それとも、その幼いお姿でも溜まった執務はこなせると……そう証明してくださるのですか? それはありがとうございます。では早速、執務室へどうぞ?」
「うぬぅ……いや、子供だから難しいことは分からんやもしれんね、タネトモ参謀」
「随分と調子の良いお子様にございますね」
間髪入れず叩き込まれるタネトモの辛辣な言葉に、フハッ、と笑ったのはケツァルコアトルだった。自分との喧嘩以外でたじたじになっているテスカトリポカを見られたのが新鮮だったらしい。
む、と口を尖らせたテスカトリポカが、ケツァルコアトルの手を引いてやや大股で歩き出す。ちょっとご機嫌を損ねたな、と笑うケツァルコアトルに、ジャガーの少年は言った。
「今のは特別に忘れても構わんよ」
「嫌だ。忘れない」
「むう……」
オンブレティグレは学業を終えて、スパーリングをしている最中だった。テスカトリポカが顔を見せるなり、弾けんばかりの笑顔で「スペルエストレージャ!!」と駆け寄ってきて、目線を合わせるために素早くかしずいていた。
興行を見たい、と伝えると、オンブレティグレは喜んで、二人なら関係者席を用意するから、そこで存分に見ていってくれ! と言う。
「どうしても料金を払いたいとケツァルが言うのだよ。とびきり高い席のチケットを譲ってくれまいか?」
「ぐ……テスカトリポカ、大学生の懐事情を分かってないな? 給料日前だからそんなに持ち合わせがないんだよ……」
「フハハ、だから私が出すと言ったのだよ、ケツァル」
ケラケラと笑うテスカトリポカの横顔を、オンブレティグレが眩しそうに微笑んで見つめている。太陽神の幸福を願う眷属の眼差しに、ケツァルコアトルのほうが気づいた。
そして、同じように眩しそうな笑みを、オンブレティグレに向けたのだった。
彼の試合は迫力があった。
悪役にやられそうになり、苦しむ演技も堂に入っている。ケツァルコアトルが夢中で見入っているのを、テスカトリポカが横目で見て、笑う。
オンブレティグレの起死回生の一撃が、悪役に入った! うおー! と盛り上がる観客と共にケツァルコアトルも手を叩いて喜んで、隣に座るテスカトリポカの肩を抱いた。
「テスカ、夕飯はファミレスで済まそう」
試合を見終わったケツァルコアトルはホクホク顔である。祭りみたいだったな、と上機嫌な竜蛇に、テスカトリポカは小さく笑っていた。
「機嫌が直ったようで何よりだよ」
「直ってないぞ、テスカ! お前とのスタンスの違いは悲しいさ! でも、それはそれ、これはこれだ!」
「忙しい男だね、君って奴は」
ケツァルコアトルは少年を抱き上げる。また見に行きたい、と言うケツァルに、テスカは頷いて、それから悪戯っぽく言うのだった。
「次は私が払ってあげよう、ケツァルコアトル。大学生の懐事情を鑑みてね」
「あ! うるさいぞ、きょうだい!」
