ちょっと遊ぼうか
ちょっと話そうか
「もしもし、オンブレティグレ」
端末を使って眷属に連絡を取る幼い姿のテスカトリポカは、リビングのソファに寝転がり、小学校の宿題を広げていた。ノートにはきれいな字が並び、担任の教師からの「たいへんよくできました」という褒め言葉と花丸が見える。
「息災かね? うむ、それなら良かった……む? 私がいないと気合いが入らない? ははあ、君も存外甘えたなのだね? 良かろう、近いうちに顔を見せにいくとしようじゃないか」
小学生らしからぬ口調と笑いかたで、テスカトリポカは学園軍獄へと足を運ぶ約束をする。電話口で、本当かい? スペルエストレージャ! とはしゃいだような声が聞こえた。
テスカトリポカが通話を終える。
それから、残った宿題を終わらせようと手をつける。
ふう、とため息のようなものをついているので、オレンジジュースとスナック菓子を盆にのせたケツァルコアトルが、その隣に座って問いかけた。
「オンブレティグレに会うのは楽しみではないのか、きょうだい?」
「フフ、それはもちろん楽しみだとも。彼のルチャの試合を特別席で見せてもらえることになったからね」
「じゃあ、なんでため息なんかつくんだね」
ソファの前のローテーブルにオレンジジュースとスナック菓子を置いていくケツァルに、テスカトリポカは口を尖らせて、今自分がやっている宿題を指差した。
宿題が憂鬱なのか?
そんな、まるで小学生みたいな悩みが彼に?
……いや、今は小学生なんだけど。
「書類整理はあまり好まんのだがね……この姿でいる以上、必須のタスクであるのだよ」
「……大人の姿のときは、書類整理から逃げてるような言いぐさじゃないか、テスカ」
「おっと」
嫌な指摘をしてくれるね?
テスカトリポカの目がそう訴えている。
上に立つ者の責務として、こなさなければならない仕事はこなせよ。
ケツァルコアトルの視線が訴え返す。
テスカトリポカが
そっぽを向いた。
「あっ、お前まさか……執務サボリの常習犯なんじゃないだろうな」
「そんな……そんなことは、決してね」
「こっちを見て言え」
「やぁだ」
図星なのだな、とケツァルコアトルは目を半分ほど閉じて、呆れた表情を作る。まったく、外を駆け回って世界を創造することは大得意なこの片割れは……。
オレンジジュースをこくこくと飲み、スナック菓子をもぐもぐと食べているテスカトリポカに、現時点では保護者として、言わねばなるまい。
「ちゃんと宿題終わらせてから遊ぶんだぞ?」
「……前向きに検討しようじゃないか」
「検討じゃなくて実行しろ」
「むう……」
黙々と宿題をこなすテスカトリポカ少年を眺めながら、自身もレポートをまとめるためにパソコンをいじる、そんな午後。
保存したレポートを教授へと送信して、パソコンを終了させた。
テスカトリポカは終わった宿題をランドセルに詰めているところだった。
「……義体の修理に一ヶ月もかかるものなのか、きょうだい」
ぽつり。
何の気なしに話しかける。
少年姿のテスカトリポカはこちらを見て、うん、と短く返した。
「サモナーと真剣勝負をしすぎたのだよ」
「サモナーって……神宿学園の、高校生の?」
「そう。なかなか骨のある奴でね、アプリバトルに何度も付き合ってもらっていたのだが……まあ、限界が来て」
「サモナーを巻き込まなかったろうな? 爆発に」
「軽傷で済んだよ」
「よし、ちょっと話そうか、きょうだい」
巻き込んだな。
怪我をさせたな。
青筋を浮かべて説教に移ろうとするケツァルコアトルに、尻尾を逆立たせたテスカトリポカが慌てて弁解する。
「サモナーの一撃がなければ爆発することもなかったのだよ! だから! 不可抗力だし! 私は無罪!」
「爆発寸前までバトルを楽しんでいたんだろう? じゃあ無罪じゃないぞ、きょうだい! こっちに来なさい、正座しろ、ここに!」
火に油。
ケツァルコアトルの尻尾に巻き取られ、テスカトリポカは大人しく座るほかなかった。
説教が終わりを迎えた頃、むくれたように口を尖らせているテスカトリポカが、ケツァルコアトルを見上げてぽつりと一言口にした。
「昔っから変わらんね、君のそういう、苛烈だけど常識人なところ」
「反省してるのか、きょうだい」
「してるとも……まあ、すまなかったとは思っているさ。しかしね、君ィ。私の無茶を叱れるほど、君は大人しいタマだったかね?」
ケツァルコアトルは言葉に詰まった。
答えは否だからだ。
テスカトリポカはケツァルコアトルの苛烈さを鏡写しにした結果として、無茶を働いているわけである。
元凶はケツァルだと言っても過言ではない。
ケツァルがテスカに暴れかたを教えたようなものなのだから。
「君は昔から好き勝手に暴れていただろう、ケツァル」
「それはそれ、これはこれ」
「果たして本当にそうかね?」
「……何が言いたいんだね、テスカは」
竜蛇からの問いに、ジャガーは一瞬黙った。
三秒くらいだろうか。
それが、ケツァルコアトルには永遠の沈黙のように感じた。
テスカトリポカが、何かを言おうとしている。
それは、ケツァルを追い詰めるかもしれない何かだ。
「……君は、本当に昔から好きに暴れて……」
「……うん」
「私の無茶を、君が叱れる立場にあるのかね。私以上に無茶をした君が」
「……テスカ」
「私を置いて、世界から消えるなんて無茶苦茶をした君が、私を責められるものかね」
「……」
来た。
こんな、不意打ちに近いタイミングではあったが。
そうだ。
彼ら二人は、それに触れて良いものかと、微妙にぎくしゃくしていて。
ついに。
触れるのだ。
口の中が一気に乾いたケツァルコアトルに、幼い姿のテスカトリポカは言う。
「ちょっと話そうか、きょうだい」
「もしもし、オンブレティグレ」
端末を使って眷属に連絡を取る幼い姿のテスカトリポカは、リビングのソファに寝転がり、小学校の宿題を広げていた。ノートにはきれいな字が並び、担任の教師からの「たいへんよくできました」という褒め言葉と花丸が見える。
「息災かね? うむ、それなら良かった……む? 私がいないと気合いが入らない? ははあ、君も存外甘えたなのだね? 良かろう、近いうちに顔を見せにいくとしようじゃないか」
小学生らしからぬ口調と笑いかたで、テスカトリポカは学園軍獄へと足を運ぶ約束をする。電話口で、本当かい? スペルエストレージャ! とはしゃいだような声が聞こえた。
テスカトリポカが通話を終える。
それから、残った宿題を終わらせようと手をつける。
ふう、とため息のようなものをついているので、オレンジジュースとスナック菓子を盆にのせたケツァルコアトルが、その隣に座って問いかけた。
「オンブレティグレに会うのは楽しみではないのか、きょうだい?」
「フフ、それはもちろん楽しみだとも。彼のルチャの試合を特別席で見せてもらえることになったからね」
「じゃあ、なんでため息なんかつくんだね」
ソファの前のローテーブルにオレンジジュースとスナック菓子を置いていくケツァルに、テスカトリポカは口を尖らせて、今自分がやっている宿題を指差した。
宿題が憂鬱なのか?
そんな、まるで小学生みたいな悩みが彼に?
……いや、今は小学生なんだけど。
「書類整理はあまり好まんのだがね……この姿でいる以上、必須のタスクであるのだよ」
「……大人の姿のときは、書類整理から逃げてるような言いぐさじゃないか、テスカ」
「おっと」
嫌な指摘をしてくれるね?
テスカトリポカの目がそう訴えている。
上に立つ者の責務として、こなさなければならない仕事はこなせよ。
ケツァルコアトルの視線が訴え返す。
テスカトリポカが
そっぽを向いた。
「あっ、お前まさか……執務サボリの常習犯なんじゃないだろうな」
「そんな……そんなことは、決してね」
「こっちを見て言え」
「やぁだ」
図星なのだな、とケツァルコアトルは目を半分ほど閉じて、呆れた表情を作る。まったく、外を駆け回って世界を創造することは大得意なこの片割れは……。
オレンジジュースをこくこくと飲み、スナック菓子をもぐもぐと食べているテスカトリポカに、現時点では保護者として、言わねばなるまい。
「ちゃんと宿題終わらせてから遊ぶんだぞ?」
「……前向きに検討しようじゃないか」
「検討じゃなくて実行しろ」
「むう……」
黙々と宿題をこなすテスカトリポカ少年を眺めながら、自身もレポートをまとめるためにパソコンをいじる、そんな午後。
保存したレポートを教授へと送信して、パソコンを終了させた。
テスカトリポカは終わった宿題をランドセルに詰めているところだった。
「……義体の修理に一ヶ月もかかるものなのか、きょうだい」
ぽつり。
何の気なしに話しかける。
少年姿のテスカトリポカはこちらを見て、うん、と短く返した。
「サモナーと真剣勝負をしすぎたのだよ」
「サモナーって……神宿学園の、高校生の?」
「そう。なかなか骨のある奴でね、アプリバトルに何度も付き合ってもらっていたのだが……まあ、限界が来て」
「サモナーを巻き込まなかったろうな? 爆発に」
「軽傷で済んだよ」
「よし、ちょっと話そうか、きょうだい」
巻き込んだな。
怪我をさせたな。
青筋を浮かべて説教に移ろうとするケツァルコアトルに、尻尾を逆立たせたテスカトリポカが慌てて弁解する。
「サモナーの一撃がなければ爆発することもなかったのだよ! だから! 不可抗力だし! 私は無罪!」
「爆発寸前までバトルを楽しんでいたんだろう? じゃあ無罪じゃないぞ、きょうだい! こっちに来なさい、正座しろ、ここに!」
火に油。
ケツァルコアトルの尻尾に巻き取られ、テスカトリポカは大人しく座るほかなかった。
説教が終わりを迎えた頃、むくれたように口を尖らせているテスカトリポカが、ケツァルコアトルを見上げてぽつりと一言口にした。
「昔っから変わらんね、君のそういう、苛烈だけど常識人なところ」
「反省してるのか、きょうだい」
「してるとも……まあ、すまなかったとは思っているさ。しかしね、君ィ。私の無茶を叱れるほど、君は大人しいタマだったかね?」
ケツァルコアトルは言葉に詰まった。
答えは否だからだ。
テスカトリポカはケツァルコアトルの苛烈さを鏡写しにした結果として、無茶を働いているわけである。
元凶はケツァルだと言っても過言ではない。
ケツァルがテスカに暴れかたを教えたようなものなのだから。
「君は昔から好き勝手に暴れていただろう、ケツァル」
「それはそれ、これはこれ」
「果たして本当にそうかね?」
「……何が言いたいんだね、テスカは」
竜蛇からの問いに、ジャガーは一瞬黙った。
三秒くらいだろうか。
それが、ケツァルコアトルには永遠の沈黙のように感じた。
テスカトリポカが、何かを言おうとしている。
それは、ケツァルを追い詰めるかもしれない何かだ。
「……君は、本当に昔から好きに暴れて……」
「……うん」
「私の無茶を、君が叱れる立場にあるのかね。私以上に無茶をした君が」
「……テスカ」
「私を置いて、世界から消えるなんて無茶苦茶をした君が、私を責められるものかね」
「……」
来た。
こんな、不意打ちに近いタイミングではあったが。
そうだ。
彼ら二人は、それに触れて良いものかと、微妙にぎくしゃくしていて。
ついに。
触れるのだ。
口の中が一気に乾いたケツァルコアトルに、幼い姿のテスカトリポカは言う。
「ちょっと話そうか、きょうだい」
