対等アンバランス
スープレックス屋内
「あ、あ、待った、あ、ケツァ……あ痛ぁ!!」
テスカトリポカの低い低い悲鳴が上がって……潰えた。
ケツァルコアトルのバックドロップが見事に決まり、テスカトリポカの脳天が床に激突したからだった。
床と衝突した瞬間、テスカトリポカの体から黒い煙が噴き出したような気がしないでもなかったが、ケツァルコアトルが華麗にスルーしているので、恐らく気のせいなのだろう。
「あっぐぁ、痛……君のせいで瘤ができた……」
呻きながら苦情を述べるジャガー獣人に、羽毛の生えた竜は冷たく言い放つ。
「黙れ、浮気者」
ケツァルコアトルは美しい竜蛇である。
その苛烈な気性と、喧嘩を売ったら即、拳が飛んでくる超人的な体力を知られない限り、一目惚れした者たちが声をかけて撃沈するくらいには、見目麗しい。
鏡写しであるテスカトリポカもまた、顔がよかった。
しかしこちらも苛烈な気性を持っているし、学園軍獄でのはちゃめちゃぶりを知っている者ならばまず間違いなくナンパの対象にはしないだろう、トラブルメーカーだ。
しかし見た目はいいのだ。
だから初見さんが寄ってくる。
テスカトリポカさん、テスカトリポカさんと色目を使ってくる転光生たちを、テスカトリポカは振り払うでもなく、突き放すでもなく、放置していた。
それがケツァルコアトルの怒りを買ったのである。
お前、たしか怖い夢見て泣いていた俺に、掴んだら離さぬよ、なんて言ってなかったか? 俺を離さないとその口で言っておきながら、周りに馬の骨を侍らせてそしらぬ顔とはよい度胸じゃないかね、あん?
テスカトリポカのネクタイを掴んで家まで引きずって帰った。
あれらは何でもないだろう、私にとっては有象無象だよ、なんてテスカトリポカが言うのに、その有象無象を振り払わない怠慢さを怒っているのだよ! とケツァルは叫んだ。
叫んで、テスカトリポカを背後から抱き締めて。
持ち上げて。
あ、あ、待った、あ、と慌てるテスカトリポカに、反省の準備はいいかな? と吐き捨てて、後ろ向きに叩きつけた。
正座中のテスカトリポカを、仁王立ちしたケツァルコアトルが見下ろす。確かに脳天に瘤ができていた。知らん、そんなこと。と不機嫌さをあらわにして切り捨てる竜蛇だ。
「俺という者がいながら有象無象を蹴散らさんのは何故だね、きょうだい? 納得のいく説明をしてもらおうじゃないか」
「つまり君は、嫉妬していた、ということだね? 私が他の者に色目を使うのではないかと心配していたわけ……いひゃい!!」
ギリギリギリ、と万力のような力でテスカトリポカの頬をつねり上げるケツァルコアトルの目には、殺気がこもっていた。青筋も浮かんでいたし、戦争での敗北者にトドメを刺すときの迫力を持っていた。
「無駄口を叩かないで説明してくれると嬉しいよ、きょうだい」
「わらひわらね、けつぁう! 君と対等れいたいのらよ! ほんな、序列が設定はれた関係なろ、望んれわいらい!」
「対等になってほしかったら見解を述べよ」
「厳ひい」
正座したテスカトリポカの膝の上にケツァルコアトルが乗る。石抱きの刑ならぬ、竜抱きの刑だ。重さがジャガーの膝にのし掛かり、普通に足がしびれる。
不機嫌なケツァルコアトルが、どうなんだ? あ? とテスカトリポカの顔を覗き込んでくるので、責められている側は眉間にシワを寄せながら口を開いた。
「だって、ほら」
「……」
「有象無象の真ん前で君に口づけのひとつでも贈れば、彼らは一瞬で諦めてくれるし、私は君のものである主張もできるから……あとでまとめてやろうかな、と」
「夏休みの宿題じゃないんだぞ? あとでまとめるな」
テスカトリポカを無理矢理立たせてコブラツイストを決めるケツァルコアトルが、苛立ったようにツッコんだ。
あだだだいだだだ、と悲鳴を上げているテスカトリポカに届いていたかは微妙である。
「私は! 私! は! 君しか! 好きではないよ! 知ってるだろう! きょうだい!」
「知ってるが知ったこっちゃない!!」
「理不尽だよ、それはぁ!!」
ケツァルコアトルが怒りに任せてテスカトリポカをぶん投げた。
タンスにぶち当たったテスカトリポカは、またも脳天を押さえて呻いていた。クリーンヒットしたらしい。
「こんな争い、望んじゃいないというのに……私が望むのは、どちらが勝つか分からない、泥沼の戦争だというのに……」
「俺はナンパされたとき、何度も何度も、連れがいるから、お前らよりいい男を捕まえてるから無駄だ、と断ってきたのに、お前が一向に断らないからこうなる」
「……かわいいことを言ってくれるなあ、君」
「うっさい。ごめんなさいは?」
「ううむ、理不尽」
喧嘩をしながらイチャつく、という高等技術を披露する二人である。
「心配しなくとも、私は君以外見てやしないよ」
「うん。で? ごめんなさいは?」
「あ、はい……ごめんなさい」
拗ねたケツァルコアトルに勝てるほど、テスカトリポカは薄情ではないらしい。惚れた弱味というべきか、腫れた痛みというべきか。
不機嫌そうに、ケツァルコアトルがジャガーに口づけをした。
ご機嫌がようやく直ってきたのか、竜蛇はやっと小さくため息をついて、テスカトリポカのほうを見る。
「馬鹿」
「嫉妬に駆られる君もかわいかったよ?」
「うっさい」
ケツァルコアトルの勝ち。
テスカトリポカの大勝ちである。
「あ、あ、待った、あ、ケツァ……あ痛ぁ!!」
テスカトリポカの低い低い悲鳴が上がって……潰えた。
ケツァルコアトルのバックドロップが見事に決まり、テスカトリポカの脳天が床に激突したからだった。
床と衝突した瞬間、テスカトリポカの体から黒い煙が噴き出したような気がしないでもなかったが、ケツァルコアトルが華麗にスルーしているので、恐らく気のせいなのだろう。
「あっぐぁ、痛……君のせいで瘤ができた……」
呻きながら苦情を述べるジャガー獣人に、羽毛の生えた竜は冷たく言い放つ。
「黙れ、浮気者」
ケツァルコアトルは美しい竜蛇である。
その苛烈な気性と、喧嘩を売ったら即、拳が飛んでくる超人的な体力を知られない限り、一目惚れした者たちが声をかけて撃沈するくらいには、見目麗しい。
鏡写しであるテスカトリポカもまた、顔がよかった。
しかしこちらも苛烈な気性を持っているし、学園軍獄でのはちゃめちゃぶりを知っている者ならばまず間違いなくナンパの対象にはしないだろう、トラブルメーカーだ。
しかし見た目はいいのだ。
だから初見さんが寄ってくる。
テスカトリポカさん、テスカトリポカさんと色目を使ってくる転光生たちを、テスカトリポカは振り払うでもなく、突き放すでもなく、放置していた。
それがケツァルコアトルの怒りを買ったのである。
お前、たしか怖い夢見て泣いていた俺に、掴んだら離さぬよ、なんて言ってなかったか? 俺を離さないとその口で言っておきながら、周りに馬の骨を侍らせてそしらぬ顔とはよい度胸じゃないかね、あん?
テスカトリポカのネクタイを掴んで家まで引きずって帰った。
あれらは何でもないだろう、私にとっては有象無象だよ、なんてテスカトリポカが言うのに、その有象無象を振り払わない怠慢さを怒っているのだよ! とケツァルは叫んだ。
叫んで、テスカトリポカを背後から抱き締めて。
持ち上げて。
あ、あ、待った、あ、と慌てるテスカトリポカに、反省の準備はいいかな? と吐き捨てて、後ろ向きに叩きつけた。
正座中のテスカトリポカを、仁王立ちしたケツァルコアトルが見下ろす。確かに脳天に瘤ができていた。知らん、そんなこと。と不機嫌さをあらわにして切り捨てる竜蛇だ。
「俺という者がいながら有象無象を蹴散らさんのは何故だね、きょうだい? 納得のいく説明をしてもらおうじゃないか」
「つまり君は、嫉妬していた、ということだね? 私が他の者に色目を使うのではないかと心配していたわけ……いひゃい!!」
ギリギリギリ、と万力のような力でテスカトリポカの頬をつねり上げるケツァルコアトルの目には、殺気がこもっていた。青筋も浮かんでいたし、戦争での敗北者にトドメを刺すときの迫力を持っていた。
「無駄口を叩かないで説明してくれると嬉しいよ、きょうだい」
「わらひわらね、けつぁう! 君と対等れいたいのらよ! ほんな、序列が設定はれた関係なろ、望んれわいらい!」
「対等になってほしかったら見解を述べよ」
「厳ひい」
正座したテスカトリポカの膝の上にケツァルコアトルが乗る。石抱きの刑ならぬ、竜抱きの刑だ。重さがジャガーの膝にのし掛かり、普通に足がしびれる。
不機嫌なケツァルコアトルが、どうなんだ? あ? とテスカトリポカの顔を覗き込んでくるので、責められている側は眉間にシワを寄せながら口を開いた。
「だって、ほら」
「……」
「有象無象の真ん前で君に口づけのひとつでも贈れば、彼らは一瞬で諦めてくれるし、私は君のものである主張もできるから……あとでまとめてやろうかな、と」
「夏休みの宿題じゃないんだぞ? あとでまとめるな」
テスカトリポカを無理矢理立たせてコブラツイストを決めるケツァルコアトルが、苛立ったようにツッコんだ。
あだだだいだだだ、と悲鳴を上げているテスカトリポカに届いていたかは微妙である。
「私は! 私! は! 君しか! 好きではないよ! 知ってるだろう! きょうだい!」
「知ってるが知ったこっちゃない!!」
「理不尽だよ、それはぁ!!」
ケツァルコアトルが怒りに任せてテスカトリポカをぶん投げた。
タンスにぶち当たったテスカトリポカは、またも脳天を押さえて呻いていた。クリーンヒットしたらしい。
「こんな争い、望んじゃいないというのに……私が望むのは、どちらが勝つか分からない、泥沼の戦争だというのに……」
「俺はナンパされたとき、何度も何度も、連れがいるから、お前らよりいい男を捕まえてるから無駄だ、と断ってきたのに、お前が一向に断らないからこうなる」
「……かわいいことを言ってくれるなあ、君」
「うっさい。ごめんなさいは?」
「ううむ、理不尽」
喧嘩をしながらイチャつく、という高等技術を披露する二人である。
「心配しなくとも、私は君以外見てやしないよ」
「うん。で? ごめんなさいは?」
「あ、はい……ごめんなさい」
拗ねたケツァルコアトルに勝てるほど、テスカトリポカは薄情ではないらしい。惚れた弱味というべきか、腫れた痛みというべきか。
不機嫌そうに、ケツァルコアトルがジャガーに口づけをした。
ご機嫌がようやく直ってきたのか、竜蛇はやっと小さくため息をついて、テスカトリポカのほうを見る。
「馬鹿」
「嫉妬に駆られる君もかわいかったよ?」
「うっさい」
ケツァルコアトルの勝ち。
テスカトリポカの大勝ちである。
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