対等アンバランス
等倍で返る
殴ったら殴り返される、煽ったら煽り返される、噛みついたら噛みつき返され、チャージスキルにはチャージスキルが返る。
やったらやり返され、やり返しにまたやり返す二人は、本日七度目のリベンジマッチをしていた。やめろ。
「まだやろうというのか、きょうだい! 俺が投げた目覚まし時計が頭を直撃した時点で勝負は決まってたろう!」
青筋を浮かべてケツァルコアトルが叫ぶ。
目覚まし時計を投げるな。
それに対するテスカトリポカは、悔しそうに喉の奥で唸るばかりで反論をしない。一発には一発を返すのが彼らの流儀であるはずなのに、ジャガーの獣人から返るのは無言だった。
頭に血が上っているケツァルコアトルは、こちらを睨み付けて唸るばかりのテスカトリポカに苛立ちを隠せない。
「なんとか言ったらどうだね!」
怒りに任せて主張した直後だった。
「……君なんて」
テスカトリポカの口が開いた。
「君なんて、私を置いてエルドラドから出ていった癖に」
「あ」
ケツァルコアトルが言葉に詰まる。ジャガーからのカウンターパンチは、みぞおちだけじゃなく、臓腑まで抉っていきそうな威力だ。
口をパクパクとさせる羽毛ある蛇は、目の前の、眉間にシワを寄せて怒っている彼を、呆然と見つめていた。
テスカトリポカのほうも、自分が何を言ったか自覚した後、呆然としていたが。
言葉は風だ。言い直すことなど、できやしない。俯いて黙り込んでしまったケツァルに手を伸ばし、しかし、つらそうな顔をさせたのは自分の恨み言がきっかけだと分かっているテスカは、なにも言わずにその手を下ろした。
沈黙が場を支配する。
先程まで大喧嘩していたくせに、あっという間に静まり返った空間で、ず……と鼻をすする音がした。
「……最初に、俺の前からいなぐなっだのは、おばえじゃないか」
テスカトリポカの重たい一発に、ケツァルコアトルの重たい一発が返った瞬間だった。テスカトリポカは、ぐう、と低い声を出し、なにも言えずにケツァルを見つめる。
やられたらやり返す。
この二人はそうやって、延々と仕掛けて仕掛けられてを繰り返して生きてきた。泣かして泣かされて、怒らせて怒らされて。
テスカトリポカが、ため息をついた。
「……すまない、きょうだい。私が悪かった」
「それは、お前が生け贄になったことを謝ってるのか」
「そうじゃないよ。今回の言い争いのみを謝罪しているのだよ」
「……謝り方が違う。もっと誠心誠意謝れ。頭を下げろ、馬鹿」
謝罪にまで応酬があるのか、このきょうだいは。
ぶすっとした表情デテスカトリポカを見るケツァルコアトルは、頭を下げてごめんなさい、だろ、と言って憚らない。そればっかりは対等じゃなくなるのでごめん被りたいテスカトリポカである。
「君が謝ったら考えようか」
据わった目でケツァルを見つめて、テスカが言った。
自分は謝った。だが、ケツァルコアトルはまだ謝っていない。なのにケツァルからはさらに深い謝罪を求められている。そのアンバランスさを突くことにしたのだった。
ケツァルはムッとした表情になる。先にひどいことを言ったのはテスカトリポカだ。なのになぜ自分まで謝らなければならないのだ。いや、分かっている。我々は対等だ。あちらが謝ったのなら、こちらも謝らねばならない。分かっている。
だが、こちらは被害者では?
そう考えていたのだろう。しばらくの間のあと、ケツァルコアトルはテスカトリポカの目を見て、言った。
「お前が悪かったけど、ごめんな」
「はぁーーーっ?」
テスカトリポカの喉から、焼きそばぁ? みたいな声が出た。
駄目だ。これでは全く対等ではない。なんだ、お前が悪かったけどっていうのは。意地っ張りワールドカップにでも出るつもりか。なんだ、意地っ張りワールドカップとは。
ケツァルコアトルにこれ以上謝るつもりはない。
テスカトリポカもこれ以上謝りたくはない。
二人は無言でお互いに近づいていった。一応、謝った。一応は、謝ったのだ。ならば、この喧嘩はここでおしまい。
つまり。
「お前の態度が気にくわない!」
「それはこちらの台詞だよ、君ィ!」
第八回戦の開幕、ということである。
思いきりテスカトリポカに押し倒され床に頭をぶつけたケツァルが、尻尾でテスカトリポカの腰を強かに打つ。
マウントポジションカから拳を振り下ろすテスカと、なりふり構わず拳を振り上げるケツァルの、クロスカウンターが見事に決まった。
……ぐったりとした様子で、テスカトリポカがケツァルコアトルにしなだれかかった。先に体力が尽きたのは、テスカトリポカのほうだったようだ。ぜえ、と息をしたジャガーの頭を、竜蛇が撫でる。
「で?」
「……ごめんなさい」
「よろしい」
今回はケツァルコアトルの勝利らしい。
らしいといっても、この二人はまた争うし、いつも争うし、どこでも争うので、勝利などあってないようなものなのだ。
「……俺も、ごめんなさい」
テスカトリポカから視線をずらして、ケツァルコアトルがそう口にした。
殴ったら殴り返される、煽ったら煽り返される、噛みついたら噛みつき返され、チャージスキルにはチャージスキルが返る。
謝罪には、謝罪が返る。
対等だからこそ、そうなる二人だ。
「……引き分け、ということでいいのだね?」
「今回はそれで手を打とうじゃないか、テスカ」
「……よかろう」
「先に謝ったのはお前のほうだけどな」
「あーあー」
「ふはは! 聞こえなーいってするな!」
明日もきっと、一発に一発が返る。
殴ったら殴り返される、煽ったら煽り返される、噛みついたら噛みつき返され、チャージスキルにはチャージスキルが返る。
やったらやり返され、やり返しにまたやり返す二人は、本日七度目のリベンジマッチをしていた。やめろ。
「まだやろうというのか、きょうだい! 俺が投げた目覚まし時計が頭を直撃した時点で勝負は決まってたろう!」
青筋を浮かべてケツァルコアトルが叫ぶ。
目覚まし時計を投げるな。
それに対するテスカトリポカは、悔しそうに喉の奥で唸るばかりで反論をしない。一発には一発を返すのが彼らの流儀であるはずなのに、ジャガーの獣人から返るのは無言だった。
頭に血が上っているケツァルコアトルは、こちらを睨み付けて唸るばかりのテスカトリポカに苛立ちを隠せない。
「なんとか言ったらどうだね!」
怒りに任せて主張した直後だった。
「……君なんて」
テスカトリポカの口が開いた。
「君なんて、私を置いてエルドラドから出ていった癖に」
「あ」
ケツァルコアトルが言葉に詰まる。ジャガーからのカウンターパンチは、みぞおちだけじゃなく、臓腑まで抉っていきそうな威力だ。
口をパクパクとさせる羽毛ある蛇は、目の前の、眉間にシワを寄せて怒っている彼を、呆然と見つめていた。
テスカトリポカのほうも、自分が何を言ったか自覚した後、呆然としていたが。
言葉は風だ。言い直すことなど、できやしない。俯いて黙り込んでしまったケツァルに手を伸ばし、しかし、つらそうな顔をさせたのは自分の恨み言がきっかけだと分かっているテスカは、なにも言わずにその手を下ろした。
沈黙が場を支配する。
先程まで大喧嘩していたくせに、あっという間に静まり返った空間で、ず……と鼻をすする音がした。
「……最初に、俺の前からいなぐなっだのは、おばえじゃないか」
テスカトリポカの重たい一発に、ケツァルコアトルの重たい一発が返った瞬間だった。テスカトリポカは、ぐう、と低い声を出し、なにも言えずにケツァルを見つめる。
やられたらやり返す。
この二人はそうやって、延々と仕掛けて仕掛けられてを繰り返して生きてきた。泣かして泣かされて、怒らせて怒らされて。
テスカトリポカが、ため息をついた。
「……すまない、きょうだい。私が悪かった」
「それは、お前が生け贄になったことを謝ってるのか」
「そうじゃないよ。今回の言い争いのみを謝罪しているのだよ」
「……謝り方が違う。もっと誠心誠意謝れ。頭を下げろ、馬鹿」
謝罪にまで応酬があるのか、このきょうだいは。
ぶすっとした表情デテスカトリポカを見るケツァルコアトルは、頭を下げてごめんなさい、だろ、と言って憚らない。そればっかりは対等じゃなくなるのでごめん被りたいテスカトリポカである。
「君が謝ったら考えようか」
据わった目でケツァルを見つめて、テスカが言った。
自分は謝った。だが、ケツァルコアトルはまだ謝っていない。なのにケツァルからはさらに深い謝罪を求められている。そのアンバランスさを突くことにしたのだった。
ケツァルはムッとした表情になる。先にひどいことを言ったのはテスカトリポカだ。なのになぜ自分まで謝らなければならないのだ。いや、分かっている。我々は対等だ。あちらが謝ったのなら、こちらも謝らねばならない。分かっている。
だが、こちらは被害者では?
そう考えていたのだろう。しばらくの間のあと、ケツァルコアトルはテスカトリポカの目を見て、言った。
「お前が悪かったけど、ごめんな」
「はぁーーーっ?」
テスカトリポカの喉から、焼きそばぁ? みたいな声が出た。
駄目だ。これでは全く対等ではない。なんだ、お前が悪かったけどっていうのは。意地っ張りワールドカップにでも出るつもりか。なんだ、意地っ張りワールドカップとは。
ケツァルコアトルにこれ以上謝るつもりはない。
テスカトリポカもこれ以上謝りたくはない。
二人は無言でお互いに近づいていった。一応、謝った。一応は、謝ったのだ。ならば、この喧嘩はここでおしまい。
つまり。
「お前の態度が気にくわない!」
「それはこちらの台詞だよ、君ィ!」
第八回戦の開幕、ということである。
思いきりテスカトリポカに押し倒され床に頭をぶつけたケツァルが、尻尾でテスカトリポカの腰を強かに打つ。
マウントポジションカから拳を振り下ろすテスカと、なりふり構わず拳を振り上げるケツァルの、クロスカウンターが見事に決まった。
……ぐったりとした様子で、テスカトリポカがケツァルコアトルにしなだれかかった。先に体力が尽きたのは、テスカトリポカのほうだったようだ。ぜえ、と息をしたジャガーの頭を、竜蛇が撫でる。
「で?」
「……ごめんなさい」
「よろしい」
今回はケツァルコアトルの勝利らしい。
らしいといっても、この二人はまた争うし、いつも争うし、どこでも争うので、勝利などあってないようなものなのだ。
「……俺も、ごめんなさい」
テスカトリポカから視線をずらして、ケツァルコアトルがそう口にした。
殴ったら殴り返される、煽ったら煽り返される、噛みついたら噛みつき返され、チャージスキルにはチャージスキルが返る。
謝罪には、謝罪が返る。
対等だからこそ、そうなる二人だ。
「……引き分け、ということでいいのだね?」
「今回はそれで手を打とうじゃないか、テスカ」
「……よかろう」
「先に謝ったのはお前のほうだけどな」
「あーあー」
「ふはは! 聞こえなーいってするな!」
明日もきっと、一発に一発が返る。
